健全な人間関係は自己肯定感とセット アドラー心理学
「上司とうまくいく方法」「コミュニケーションアップ術」など、対人関係スキルの情報が花盛りの現代。アドラー心理学も人間関係を重視します。ですがその本質は、対人スキルとは少し違います。雑誌『日経ヘルス』から、アドラー心理学に基づいた「ココロの救い方」を発信します。
私はこれまで病院や学校などの場で多くの方の悩みを聞いてきました。内容はさまざまですが、そのほぼすべてに「親子」「夫婦」「友達」「職場の上司や同僚」といった人間関係の問題が関わっています。「仕事がうまくいかない」など、一見、人間関係とは無縁に思える悩みでも、中身を細かく見ていくと、どこかで人間関係の問題につながることが多いのです。
現代は、人間関係の取り扱いが難しい時代です。スマホやSNSなどが登場し、以前よりも人とのコンタクトが格段に容易になりました。「いつでもつながれる」といえば聞こえがいいですが、裏を返せば、常に人とのつながりを意識させられるともいえます。距離感を保つのが難しいのです。そして、おそらくそんな時代ゆえでしょう、書店やネット上には、人間関係をスムーズにするための対人関係スキルの情報があふれています。
そういったテクニックで悩みが軽くなればいいのですが、アドラー心理学の立場から見ると、多くのハウツー情報には、大切な視点が欠けています。健全な人間関係は、「自己肯定感」とセットで初めて実現される、という視点です。
仕事の意欲が出ないのは人間関係の問題かも?
例えば、人と話すのが苦手な人が、「コミュニケーション力を高める技術」を学ぶとしましょう。話題の選び方や言葉遣いを改善することで、滑らかに話せるようになればいいですが、実際にはそうならない場合も多い。「話すのが苦手」と悩む人はたいてい「人目を気にする意識」が非常に強く、相手が自分をどう見ているかが気になって仕方がない。だからスムーズに話せないのです。
ずっと仕事を頑張ってきた人が、「最近どうも意欲がわかない」と悩んでいる場合はどうでしょうか。これなどは人間関係とあまり関係なさそうに思えますが、話を聞いていくと、しばしば「こんなに頑張っているのに……」などと口ごもるような言葉が出てきます。この「……」の後ろに、「上司が評価してくれない」と人からの評価を気にしたり、「大事な仕事はあの人ばかり」と人と比較するような心理が隠れていることが、意外に多いものです。
誰でも人の目は気になります。ですが、ちょっと気になるレベルを超えて、「自分の価値のよりどころ」まで人の目に依存してしまうと、ささいなことにもココロが揺れて、自分を前向きに受け入れられなくなります。根底にあるのが、「自己肯定感が低い」という問題です。
コミュニケーションツールが極度に発達した現代は、誰もがこんな「人の目依存」に陥りやすい時代といえます。そんな心理を抱えたまま対人関係のテクニックだけを学んでも、なかなか悩みは解決できません。
今月のレッスン1は、自分の「人の目依存」について考えてみましょう。例えば仕事をするとき、上司の意向や指示に注意を向けるのは当然ですが、ちょっとした言動まで気になって、意図を深読みしてしまうようであれば、「人の目依存」に陥っているかもしれません。
Lesson1 人の目を気にしすぎると自己肯定感が低くなる
人の目を気にする人は、「評価が高い私だから価値がある」という発想にはまり込みやすい。すると、いつも人の顔色が気になってしまう。また、失敗をしたり不快なことがあったときに、気持ちを立て直すのが難しくなる。こういうときは自己肯定感が低い状態だ。
自己肯定感が育てば人間関係は自然によくなる
自己肯定感とは、イヤなことがあったり失敗したりしたときに、「大丈夫、何とかなる」と自分を受け入れ、勇気づける感覚のこと。こういう感覚が強い人は、人間関係であまり悩みません。むしろ、周囲に対しても肯定的な雰囲気を広げるため、自然と健全な関係を結んでいることが多い。そして健全な関係の中にいるから、イヤなことが起きにくい──という好循環が成り立ちます。だから人間関係に悩みがちな人は、関係改善のテクニックに走るより、自己肯定感を高めることが大切です。
そこでレッスン2。お薦めは散歩です。お気に入りの店が立ち並ぶエリアや公園などを、景色を楽しみながら歩いてみてください。
「どうして散歩?」と意外に思う人も多いでしょう。悩んでいるときは、その悩みにとらわれ、あれやこれやと妄想をふくらませて逃れられなくなっていることが多いのです。まずは悩みからココロを離すこと。それには何か行動すること。するとココロも動きます。単純なようですが、人のココロはそうなっているのです。その後に問題を振り返ってみてください。見え方が変わってきませんか。こうして自分を勇気づけられるココロを育てていくことが大切なのです。
Lesson2 散歩をしてココロが軽くなれば自己肯定感が芽生える
健全な人間関係は、健全なココロから。悩みにはまり込んでウジウジしているより、お気に入りの公園や通りを散歩して、気持ちを切り替えよう。単純な方法だが、効果は絶大。気持ちが晴れれば、それまで深刻に思えた悩みも、案外「なんとかなる」と思えるもの。