働きたくても働けない貧困専業主婦、再就職先は「4C」が多いが…

専業主婦というとこれまで「勝ち組」とされてきたが、立場に異変が起きている。さまざまな事情から経済的に行き詰まり、専業主婦を強いられ、貧困に陥る「貧困専業主婦」が増えつつあるというのだ。
朝日10月10日付朝刊に掲載された《「貧困専業主婦」のワナ》の記事は、大きな波紋を呼んだ。「労働政策研究・研修機構」主任研究員である周燕飛さんが、自身の造語である「貧困専業主婦」の実態について解説した記事だが、以下のようなショッキングな内容が述べられていた。
●全国に21万2000人(2016年時点)いると推計される
●貧困専業主婦の4人に1人は不本意ながら専業主婦だが、残りの4人に3人は自ら専業主婦を選んでいる
●「行きすぎた体罰」「育児放棄」など虐待行為の経験がある貧困専業主婦の割合は9.7%で、それ以外の主婦の約4割多かった。特に、育児放棄は2倍以上だった
●貧困専業主婦は子供に教育費がかけられず、学力が不充分になりがちなので、子供に貧困が連鎖する可能性がある
●女性が仕事を辞めると、高卒では1億円、大卒では2億円もの生涯賃金を失うという試算がある
●日本の女性はお金よりも、自らの手で子育てすることに大きな価値を見出すので、貧困専業主婦の3人に1人が「幸せ」と感じており、問題が表面化しにくい
厚労省は、生活に最低限必要な収入を表す指標である「貧困線」を、4人世帯で収入244万円、3人世帯で211万円としている(2015年)。『貧困専業主婦』(周燕飛著、新潮選書)によると、この貧困線を下回る収入の「貧困世帯」のうち、妻が無職で18才未満の子供がいる夫婦世帯を「貧困専業主婦世帯」と呼ぶと定義される。

豊かな生活を送るため、貧困世帯は妻が働きに出るのが当然のように思えるが、なぜ働かないのか。『専業主婦になりたい女たち』(ポプラ新書)の著者で相模女子大学客員教授の白河桃子さんが話す。
「日本は働く女性が増えたように思いますが、実は5割の女性が第1子出産後に仕事を辞め、専業主婦になります。2人に1人と、いまだに多くの女性が結婚を機に仕事を辞めていることになります。その後、多くの主婦がパートなどで生活をしのいでいますが、一度仕事を辞めて正社員に戻れるのは実は4人に1人。安易に辞めてしまうと、元の地位に戻るのにはかなりハードルが上がります」
福岡県在住の専業主婦、古賀さん(仮名、33才)も、働きたくても働けない専業主婦の1人だ。
「高校の頃、ひどいいじめにあい、不登校になって高校を中退しました。そのせいで、私の最終学歴は中卒です。これまで居酒屋や100円ショップのアルバイトを経験しましたが、正社員はもちろん、派遣や契約社員として働いた経験もありません。
幸い、22才で結婚した時は、親も安心してくれましたが、夫も高卒で、勤めていた清掃会社の上司のパワハラで精神を病んでしまって。うつ病の診断を受けて、半年前に退社しました。貯金もなく生活できないので、今は生活保護を受けて暮らしています。
自分が働けたらよいのですが、7才と3才の子供に手がかかり、保育園に入れるお金もない。中卒で正社員としての業務経験もないので、育児に理解のあるような仕事には就けません」

専業主婦の再就職先としては、4C(介護、クリーニング、クッキング、キャッシャー)といわれる仕事に就くことが多いという。だが、それも時間に融通が利くわけではない。いくら人手不足で求人が多くても、パート先の条件に合わなければ、古賀さんのような主婦は労働市場から締め出されてしまう。
また、パートをしてもその賃金が安いために、給料のほとんどが保育園代に消えてしまうケースも多い。貧困層にとって、保育園に預けてまで働くメリットがないのだ。
『夫婦格差社会』(中公新書)の著者で経済学者の橘木俊詔さんは、同じような学歴や職歴の男女の「同類婚」によって夫婦の格差が拡大していると分析する。
「共働き世帯における夫婦の所得分布をみると、夫の年間所得が300万円未満であれば、妻の年間所得も200万円未満という割合が7割を占めています。
一方で、夫の年間所得が1000万円を超えると、妻が600万円以上と夫婦揃って高所得者層というケースも少なくない。そうして富裕層と貧困層、どちらにも専業主婦が生まれ、格差が拡大していくのです」
逆説的だが、高学歴の専業主婦ほど、仕事に就けないケースも多いという。主婦の生活実態に詳しい作家の石川結貴さんが話す。
「一流企業で働いていたバリキャリの女性が、一度仕事を辞めて同じ職場に戻ろうとしても、すでに別の優秀な人材が空いた穴を埋めています。結局、主婦がやれる仕事は“4C”ぐらいしかないのですが、そうした成功体験のある高学歴女性にはスーパーのレジ打ちはできないでしょう。結果、夫の収入だけに頼らざるを得なくなり、貧困が進むケースもあります」