近年、企業においてキャリア開発に関する取り組みが活発化しています。変化のスピードが激しく将来予測が難しい経営環境下にあって、継続的に高い成果を生み出すために、従業員の適材適所を行い、能力・スキルを向上させていく施策・制度のことを「キャリア開発」といいます。
1.キャリア開発とは
キャリア開発の目的
近年、日本では一人ひとりの自律的な「キャリア開発」が注目を集めていますが、以前はそうではありませんでした。かつて大企業を中心とする日本企業の多くは、高度成長期に根付いた終身雇用・年功序列を前提とし、従業員のキャリアを年齢や入社年次によって一律にマネジメントしていたからです。人事異動により企業(グループ)内を異動させ、さまざまな仕事・職場を経験させることが、従業員のキャリア開発でした。従業員にとって、キャリアとは社内の中でより上位のポストに就くことであり、意識して開発していく必要はなかったのです。
しかし、バブル経済崩壊後の1990年代半ば以降、経営環境や雇用関係が大きく変化したことで、企業におけるキャリアの意味は大きく変化します。業績の悪化に伴い、多くの企業でリストラが行われ、組織がスリム化(フラット化)。終身雇用の維持が難しくなると同時に、年功序列にかわって成果主義的な人事制度が導入されました。そのため、従業員一人ひとりに、高い専門性とアウトプットが求められるようになり、企業におけるキャリア開発のあり方も、多様な能力・スキルや経験を持つ人材の育成(キャリア自律支援)へと変化していきました。
まさにパラダイムシフトとも言える変化は、従業員の就労観にも大きな影響を与えました。雇用形態や働くことへの意識が多様化し、「能力を発揮できる機会があれば昇進には執着しない」「管理職よりもスタッフとして専門知識を活かすポストに就きたい」といったように、企業内での昇進を求めない従業員が増えていったのです。自分のキャリアを企業に任せきりにするのではなく、社会人生活の早い段階から自分自身で開発していこうとする人が増えたことで、キャリア開発が大きく注目されるようになりました。

「自律型人材」育成の必要性
このような状況を受け、従業員には企業が用意するキャリア形成施策をただ受け入れるのではなく、自らの価値観やエンプロイアビリティを高めようとする強い意志を持って、自分らしいキャリアを描いていくことが求められるようになりました。
また、企業側にはキャリア開発を進めていくに当たって、従業員一人ひとりが「潜在的な能力を発揮できるようにする」「自らの価値観・キャリア観で仕事を選択できるようにする」「社内価値だけでなく、社外価値も高まるような職業人生を歩ませる」といった、自律型人材の育成を推し進めていくことが求められるようになりました。従業員が仕事を通じて実現したいことを見出し、将来の姿を描くことができれば、日々の仕事にも自律的に取り組むようになり、成長していきます。そしてそれは、組織の活性化や生産性向上にもつながるのです。