企業におけるキャリア開発支援の実態−1
ポイント
[1]キャリア開発支援に関する諸制度・施策:
導入割合は階層別キャリア研修45.6%、女性活躍に向けたキャリア研修20.4%。専門部署もしくは専門人材によるキャリア面談・相談は11.5%にとどまる[図表1、5]
[2]キャリア開発支援制度と他の人事制度との連携:
昇進・昇格、幹部選抜、人事評価制度、異動・転勤との連携を図るケースが多い[図表6]
[3]キャリア開発支援制度で重要と考えている対象層(五つまでの複数回答):
「中堅社員」が90.9%で最多、次いで「若手社員」81.8%、「ライン管理職」74.0%、「女性社員」55.8%の順となる[図表7]
[4]階層別キャリア研修の実施対象(複数回答):
実施対象は「新任管理職」が78.3%で最多、次いで「中堅社員」「新入社員」と続く。「課長クラス」「部長クラス」は半数を下回る[図表8]
[5]キャリアコンサルタントの配置・委託状況(複数回答)(本文略):
「社内に他業務と兼任のキャリアコンサルタントがいる」ケースが46.7%
[6]キャリア開発支援制度の社内での理解・浸透度(本文略):
「あまり理解を得られていない」が経営層で18.7%、現場管理職で47.0%に上り、人事部でも「一定度合いにとどまっている」が49.7%
[7]キャリア開発支援に関する自社の課題(本文略):
経営層・管理職層の理解が得られない、全社的な体制やプログラムの未整備、効果測定の困難さ、専門組織・専門人材の不足等
[8]キャリア開発支援に関する今後の計画・方向性(本文略):
全体的な体系の整備と他の人事制度との連携、若年層、女性、ライン管理
1.キャリア開発支援に関する諸制度・施策
導入割合は階層別キャリア研修45.6%、女性活躍に向けたキャリア研修20.4%。
専門部署・専門人材によるキャリア面談・相談11.5%
[1]キャリア研修の導入状況[図表1]
(1)階層別キャリア研修
「現在導入している」が45.6%と最も高い。次いで「今後5年以内に導入する予定」「現在導入しておらず、当面、導入する予定もない」がともに27.2%となっている。
【図表1】キャリア研修の導入状況
(2)節目(年代別)キャリア研修
「現在導入しておらず、当面、導入する予定もない」が40.8%と最も高く、次いで「現在導入している」35.5%、「今後5年以内に導入する予定」23.7%となっている。
(3)女性活躍に向けたキャリア研修
「現在導入しておらず、当面、導入する予定もない」が43.7%と最も高く、次いで「今後5年以内に導入する予定」35.9%となり、「現在導入している」は20.4%にとどまっている。
なお、規模別に見ると、違いがはっきり表れている。「1000人以上」では「現在導入している」が35.2%に上っているのに対して、「300人未満」では10.0%にとどまっている。また、「今後5年以内に導入する予定」について、「1000人以上」では48.1%に上るのに対して、他の規模では20〜30%台にとどまっている。「300人未満」では「現在導入しておらず、当面、導入する予定もない」が63.3%にも上り、規模による女性活躍の現状や課題認識の違いが浮き彫りになっている。
[2]「異動・配置」関連制度の導入状況[図表2]
(1)社内公募制度
「現在導入しておらず、当面、導入する予定もない」が60.4%と最も高く、「現在導入している」は28.4%にとどまっている。制度の性質上、当然ながら、事業展開が幅広く、部署が多い大手ほど導入率は高く、「300人未満」では「現在導入しておらず、当面、導入する予定もない」が75.0%に達している。
【図表2】「異動・配置」関連制度の導入状況
(2)社内FA制度
この制度も大手中心に導入されている制度だが、全体では「現在導入しておらず、当面、導入する予定もない」が85.8%と最も高い。「現在導入している」割合を規模別に見ると、「1000人以上」は12.7%なのに対し、それ以外の規模では3%台となっている。
(3)自己申告制度
「現在導入している」が62.7%と最も高い。「現在導入している」割合を規模別に見ると、「1000人以上」は83.6%なのに対して、「300人未満」では45.0%にとどまっている。
(4)キャリア形成を意識した計画的なジョブローテーション
全体では「現在導入している」が34.7%と最も高いものの、「今後5年以内に導入する予定」「現在導入しておらず、当面、導入する予定もない」も30%台に達している。また、大手ほど導入率は高い傾向にある。
[3]「能力開発・成長促進」関連制度の導入状況[図表3]
(1)キャリアパスや育成体系の提示
「今後5年以内に導入する予定」が38.7%と最も高いものの、「現在導入している」も36.9%と比較的高い。「1000人以上」では「現在導入している」が49.1%に上るなど、規模が大きくなるに従って導入割合は高くなっている。
【図表3】「能力開発・成長促進」関連制度の導入状況
(2)仕事やポストに求められる期待役割等の明確化
「現在導入している」が55.4%と最も高い。「今後5年以内に導入する予定」は29.2%である。規模により多少の違いはあるものの、総じて導入割合が高く、今後5年以内の導入を検討している企業も多いことが分かる。
(3)社員一人ひとりのキャリアプランの作成
「現在導入しておらず、当面、導入する予定もない」が51.8%と過半数を占める。規模別に見ても「1000人以上」の大手でも導入率は27.3%と30%に届いていない。しかしながら、「今後5年以内に導入する予定」は各規模とも30%前後に達しており、今後徐々に導入が進んでいくことが考えられる。
[4]キャリア開発を支援する専任の組織[図表4]
「キャリア開発部」「キャリアデザインサポート室」など、キャリア開発を担当する専任の部署(組織)があるかどうかについて聞いたところ、「特に組織はない」が62.1%で最も多かった。以下、「専任の組織ではなく、人事部内のメンバーで構成するプロジェクト等がある」30.2%、「専任の組織がある」7.7%の順となった。「専任の組織がある」割合を規模別に見ると、「1000人以上」は18.2%だが、「300〜999人」3.7%、「300人未満」1.7%と、大手とそれ以外の規模での差が大きくなっている。
組織がある場合、名称を尋ねたところ、「人材・組織開発部」「キャリア支援グループ」「採用・キャリアサポートグループ」などが挙げられた。
【図表4】キャリア開発を支援する専任の組織の有無
[5]「キャリア面談・相談」に関する諸制度・施策の導入状況[図表5]
(1)専門部署もしくは専門人材によるキャリア面談・相談
若者を中心とする厳しい雇用情勢への対応や、ライフステージに応じた職業キャリアの充実を図るため、青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)が2015年に成立、また2016年4月からは改正職業能力開発促進法が施行され、キャリアコンサルタントが国家資格となった。今後はこうした専門家の養成が進んでいくことが予想される。また、先に見た社内の専門部署(組織)やキャリアコンサルタントが主体となって、社員の「キャリア面談・相談」に対応するケースも出てくるだろう。
そこで、現時点での専門部署もしくは専門人材によるキャリア面談・相談の実施状況を尋ねたところ、「現在導入しておらず、当面、導入する予定もない」が72.1%と最も高く、未実施の企業の多いことが分かった。逆に導入企業は全体で11.5%、「1000人以上」の大手でも20.8%にとどまっている。
なお、こうした専門部署もしくは専門人材によるキャリア面談・相談を実施している場合の内容については、後段「5. キャリアコンサルタントの配置・委託状況」(省略)で紹介する。
【図表5】「キャリア面談・相談」に関する諸制度・施策の導入状況
(2)現場管理職によるキャリア面談・相談
一方、キャリアコンサルタントといった専門人材でなく、現場管理職によるキャリア面談・相談の実施については、「現在導入している」が44.3%と最も高くなっている。規模別に見ると、「1000人以上」の大手では55.6%と過半数に達しており、「300〜999人」でも43.4%に上っている。
(3)セルフ・キャリアドック(キャリア健診)の実施
「セルフ・キャリアドック」とは、労働者のキャリア形成における「気づき」を支援するため、年齢、就業年数、役職等の節目において定期的にキャリアコンサルティングを受ける機会を設定する仕組みで、行政が主導して導入に向けて取り組んでいく人材力強化施策の一つである。これについては、「現在導入しておらず、当面、導入する予定もない」が80.8%で最も高く、「現在導入している」は3.0%にすぎない。規模別に見ても同様の傾向である。「今後5年以内に導入する予定」は16.2%と高くはない。制度導入の自社での効果や行政の動きなどを踏まえて、現状では模様眺めといったところで、普及にはまだまだ時間がかかりそうだ。