【福岡/中小企業支援アドバイザー】最低賃金、9割の都道府県1~3円上げ
2020年度の最低賃金額を決める議論が最終局面に入った。7日までに決定した都道府県の9割は1~3円の引き上げを決めた。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国は引き上げの目安の提示を断念し、事実上、据え置く方針を示していた。地方の多くの県は人材をつなぎ留めることを意識し、小幅でも引き上げることにこだわった。
最低賃金は企業が従業員に支払わなければならない最低限の時給を示す。年1回、厚生労働省の審議会が全国の目安を示し、これをもとに各都道府県が実際の引き上げ額を決める。新基準は10月1日をメドに適用する。今年は国の審議会が目安の提示を見送ったことで、都道府県の判断が焦点になっていた。
7日までに41都府県が決めており、このうち賃上げは38に及んだ。島根県は19年度より2円高い792円にする。若者の県外流出の抑制や人手不足の解消のために全会一致で決めた。
19年度に最低水準だった熊本県や長崎県はそれぞれ3円上げ、793円にする。これにより20年度は最下位グループから脱出する。豪雨被害に見舞われた熊本が3円上げたことで「未決着の他県の議論に影響がでてくる可能性がある」(厚労省幹部)。
19年度は最高額の東京都(1013円)と最低水準の県(790円)の差が223円に達した。賃金格差は地方の若者が東京に流出し、地方経済の活力が弱まる原因になっている。
東京の地方最低賃金審議会は現状維持を東京労働局長に答申した。据え置きは03年以来、17年ぶりとなる。
コロナの感染者が全国最多で、現在も都が居酒屋などに午後10時までの営業時間の短縮を要請している。「経済情勢は厳しい」と訴える経営者ら使用者側に配慮し、雇用の維持や事業の継続性を重視した。
議論のなかで使用者側と労働者側の意見は激しく割れた。据え置きを求める使用者側に対して、労働者側は「近年の賃上げの流れを止めたくない」と1円でも上げることを目指して反論。答申をまとめた5日の審議会では「とてもじゃないが納得できない」と労働者側の委員3人が採決時に退席した。「委員が退席するなんて覚えがない」(東京労働局の担当者)という異例の決着となった。
審議会が議論が難航し、結論を来週以降に持ち越す県もある。山梨の地方最低賃金審議会は12日に改めて協議するが、議論の行方はなお不透明だ。据え置きを主張する経営側と、隣接する東京や神奈川などとの地域間格差を埋めたい労働側とで議論が平行線という。
山梨県の経営者側も労働者側も「中央が目安を示さなかったことが議論を難しくさせた」と漏らす。都道府県は例年、8月上旬までに金額を決定する。
今週、結論を出せなかった県は新しい金額の適用が10月1日から遅れることになりそうだ。
第2次安倍政権は年3%程度のペースで引き上げ、早期に1000円にする目標を掲げてきた。
コロナ禍による企業業績の厳しさが「官製引き上げ」の流れを変えた。全国の平均額は901円から小幅に上がる見通しだが、直近の16~19年度は毎年20円を超える引き上げを続けてきただけに足踏み感は鮮明になっている。