【福岡/キャリアコンサルタント】女性雇用、コロナの逆風 職種転換へ支援急務
北陸のホテルでパートとして働いていた女性(40)は7月に解雇され、月15万~16万円の収入を失った。同じ観光関連の仕事を探すが「どこも厳しい」。旅行客の急減と従業員削減の話ばかりが耳に入ってくる。
総務省の労働力調査で、就業者の減少が目立つのは対面型のサービス業や小売業だ。外出自粛や営業時間短縮に苦しんできた業種で、特に女性の落ち込みが大きい。
前年同期からの変化を4~7月の平均でみると女性は宿泊・飲食で28万人減、生活・娯楽で14万人減、卸・小売りで11万人減となった。男性の減少はそれぞれ10万人以下だ。これらの業種は非正規の女性が多く、雇用調整の対象になった。

女性の雇用者全体(季節調整値)は7月に2663万人となり、2019年末から3.2%(87万人)減った。男性は0.8%(26万人)減と減り方は全く異なる。
「リーマン危機時の『男性不況』とは逆だ」。第一生命経済研究所の永浜利広氏はこう語る。08~09年は外需が大きく減り、男性の多い製造業の雇用が急減した。一方、コロナ禍は女性の多い内需型産業を直撃した。
女性への逆風は長引く恐れがある。ネット通販の拡大、自動レジ導入といった販売現場の人員を減らす動きを「接触を避ける新しい生活様式が加速させる」(永浜氏)。
日本の就業者数は19年末までの7年間で497万人も増え、緩やかな景気回復を支えた。女性はその7割を占めており、女性の就業が失速すれば潜在成長率も低下する。

失職は老後にも響く。社会保険労務士の井戸美枝氏によると、月収15万~16万円で40歳まで10年働いた女性が受給する厚生年金は年約10万円。60歳まで働く場合に比べ、65歳から25年間の総額は500万円少ない。
国際労働機関(ILO)によると、世界の女性労働者の4割は飲食や小売りなどコロナ禍の打撃が大きい業種で働く。米国では働く女性が7月までの7カ月で10.6%減り、男性の7.3%減よりも厳しい。女性の雇用は世界共通の課題だ。

国内では有効求人倍率(季節調整値)の低下が続く。19年12月に1.57倍だったのが、20年7月は1.08倍まで下がった。
もっとも、職種による差は大きく、介護サービスは3.99倍、ケアマネジャーやソーシャルワーカーなど社会福祉の専門職は2.75倍だった。急速な高齢化に専門の技能や資格を持つ人材の供給が追いついていない。
こうした分野で女性の引き合いは強い。医療・福祉の4~7月の平均就業者数は前年同期比8万人増え、業種別で最大の受け皿となった。
情報通信で働く女性も前年同期を上回る。新型コロナはテレワークやネット通販の拡大を加速させており、デジタル人材のニーズも大きい。
日本総合研究所の山田久氏は女性の雇用安定に向けて「資格やデジタル関連などの高度な技能を身につけることが重要だ」と語り、より付加価値の高い仕事に移ってもらう必要性を強調する。
デジタル人材の育成や成人の再教育は日本の政策の手薄な部分だ。学校の授業でデジタル機器を使う時間は短く、経済協力開発機構(OECD)に加盟する先進国で最下位となった。社会人が新たに先進的な技能を学ぶ場合の支援策も乏しい。
女性が新たな活躍の場へと移るのを支える政策を急ぐ必要がある。