人事とキャリアコンサルタントとの協業を、なぜ促進する必要があるのか?-1
大幅に拡大したキャリアコンサルタントの役割
2002年に制度がスタートしたキャリアコンサルタントは、近年急速にその役割を変えつつある。法改正によって従業員に対する「キャリア支援」の提供義務が企業に課され、その責任者である「職業能力開発推進者」にキャリアコンサルタントのバックグラウンドを持つ人材を選任する必要もでてきた。人事とキャリアコンサルタントの積極的な「協業」が欠かせない時代が訪れているのだ。キャリア研究の第一人者である、慶應義塾大学 名誉教授の花田光世氏が、人事の一大イベント「HRカンファレンス」で、これからの人事が認識すべきキャリアコンサルタントと人事の関係について語った。
花田氏はまず、視聴者にこう投げかけた。 「皆さんの会社では、従業員のキャリア支援にどれくらい積極的に取り組まれているでしょうか。また、キャリア支援者は組織の中でどう位置づけられているでしょうか。これまで人事とキャリアコンサルタントはお互いにすみ分けをして、協業することはほぼありませんでした。しかし、ここにきて関係法令も変わり、キャリア支援に対して人事責任者がどういう見識を持っているのかが問われる時代になりつつあります」 花田氏は厚生労働省「登録キャリアコンサルタント等検討委員会」の座長として、キャリアコンサルタントの役割を検討し、政策の中に位置づける提言なども行っている。その花田氏がまず触れたのは、「初期のキャリアコンサルタントの役割が今は大きく拡大し、組織の活性化も活動対象になってきている」という点だった。
2000年代初頭のキャリア支援とは、基本的に「キャリアカウンセリング」だった。仕事に関する悩みに限定されない多様な悩みごとの相談を受けたり、心の不安の軽減を目指したりする活動だ。それが変化してきたのは2000年代中盤。「キャリア開発、キャリア形成の支援」が重要視されるようになり、キャリアコンサルタントの役割に加えられた。
2010年代に入ると「長期化するライフキャリアへの対応」も追加される。さらに、2016年以降は「キャリア支援により組織の活性化を図る」という考え方が注目されるようになる。こうした変化の背景にあるのが国の「職業能力開発基本計画」だ。5年ごとに策定されるこの計画によって、キャリア支援の普及とキャリアコンサルタントの役割拡大が進められてきたのだ。また、2016年4月には「改正職業能力開発促進法」が施行され、企業が従業員にキャリアコンサルティングを受ける機会を提供することが努力義務化される。
「こうした一連の動きを受けて、企業内でキャリア支援を行うチームと人事の『協業』がとても重要になっています。キャリアコンサルタントは、以前のようにカウンセリングだけをやっていればいいという時代ではなくなってきました。人事もまた、企業内でキャリア支援に関する教育を企画するような場合に、キャリアコンサルタントの国家資格をもつことが必要となり、国への補助金の申請などにいろいろと支障がでるようになってきたのです」
つまり、この20年ほどで、企業が従業員のキャリア開発、キャリア形成、さらにはライフキャリアをより手厚くサポートすることが求められるようになったのだ。また、それらを通して組織を活性化し、成長させようという考え方も一般的になっている。キャリア支援の専門家としてのキャリアコンサルタントの役割が拡大しただけでなく、人事もキャリアコンサルタントが組織活性化にどう貢献するのかを十分に理解した上で、お互いに協業することでより大きな成果を生み出すことが求められるようになっているのだ。