【福岡/北九州/働き方キャリア相談】失敗を恐れさせない工夫とは
Question
人柄的にはまじめで、それなりに仕事もできる部下がいるのですが、重要な仕事を任せようとすると躊躇(ちゅうちょ)するようです。どうしたらもっと積極的な姿勢を取らせることができるでしょうか?
部下がもっと積極的になってくれたらよいのに、どうも消極的すぎる。そのような不満をもつ経営者や管理職が多くみられます。自分自身がやる気に燃えるタイプであるほど、そうした思いは強いはずです。
まだ仕事に慣れず、要領よくこなせない人物が躊躇するならわかるけれども、それなりにこなせているし、能力的にも問題ないと思うから新たな仕事や重要な仕事を任せようとするのだが、そのつど躊躇し、
「今抱えている仕事もまだ十分こなせていないので、もう少し今のままでいさせてください」
「だれか他の方にお願いできませんか」
などと言って逃げようとする。自分だったら、「これはチャンスだ!」と飛びつくはずだが、なぜそのように躊躇するのかわからない。いったいどのような心理メカニズムが働いているのか、そこを知りたい。そのように尋ねられることがあります。
成功を夢見るか、失敗を恐れるか
そのような疑問を抱く人は、きっと非常にモチベーションが高い人なのでしょう。これはチャンスととらえて思い切ってチャレンジする人もいる一方で、まだチャレンジする自信がないと躊躇する人もいます。その違いはどこにあるのでしょうか。
そこで重要となるのが、人間を動かす動機を2つに分けて考えることです。何かにチャレンジしようかどうか迷う際に、心の中では2つの動機のせめぎ合いが生じています。
それは、成功追求動機と失敗回避動機です。
心理学者のアトキンソンは、一般にモチベーションというときに想定されている成功追求動機に対して、失敗回避動機というものを想定し、この2つの力関係によって課題遂行への姿勢が決まると考えました。
何かする際に、「うまくいったらどんなに素晴らしいだろう」という思いと同時に、「もし失敗したらどうしよう」といった思いが脳裏をかすめます。前者は成功追求動機による心の動き、後者は失敗回避動機による心の動きと言えます。
できるなら思い切ってチャレンジして成功を手に入れたいと思うものの、できたら失敗は避けたいとも思う。そのバランスが人によって違ってきます。どちらがより強いかによって、積極的にチャレンジしようとするか、チャレンジするのを躊躇するかが決まるのです。
新たな仕事や重要な仕事を任されることを躊躇する人物は、成功追求動機より失敗回避動機の方が強いタイプと言えます。一方、そのような人物を見て物足りなく思ったりいらだったりする人物は、失敗回避動機動機より成功追求動機の方が強いタイプと言えます。
タイプによって課題の与え方を変える
成功追求動機の方が強い人と失敗回避動機の方が強い人では、モチベーションの心理メカニズムが正反対であることが、心理学の実験により実証されています。どのような条件の課題を好むかが、タイプによって異なるのです。
1. 成功追求動機の方が強い人は、五分五分の勝負に燃える
成功追求動機の方が強い人は、成功確率が0か1に近い課題より、成功確率が0.5、つまりうまくいくかいかないかが五分五分の課題に対して、モチベーションが高まります。
つまり、失敗をあまり怖れないタイプは、うまくいくかどうかはわからないが、うまくやれれば達成できるかもしれないというときに、チャレンジ精神が刺激され、モチベーションが高まります。だれでもできそうな課題では面白くないため、モチベーションは上がりません。絶対にできそうにない課題では、当然ながらモチベーションは上がりません。
これは、スポーツの試合にたとえればわかりやすいでしょう。絶対に勝てそうな相手や絶対に勝てそうにない相手との試合には気持ちが燃えないでしょうが、実力にあまり差がない相手との試合だとチャレンジ精神が刺激され、モチベーションが高まるでしょう。仕事の場合も、それと同じです。
このようなタイプが部下である場合は、成功確率が0.5、つまり適度に難しくて、工夫や頑張りしだいでうまくいくかもしれないというチャレンジ性のある課題を与えるのが効果的でしょう。それによりモチベーションは上がり、実力を発揮してくれるはずです。
2. 失敗回避動機の方が強い人は、できそうだと思えばやる気になる
一方、失敗回避動機の方が強い人の場合は、成功確率が0か1に近いときにモチベーションが高まります。
つまり、だれでもできそうな課題、絶対にうまくできると思える課題のときは、失敗への不安が喚起されないため、モチベーションが高まります。また、絶対にできそうにない課題では、どうせみんなもできないのだから、たとえ自分ができなくても大丈夫と思うことで、失敗への恐怖が和らぐため、モチベーションを維持できるのです。それに対して、頑張ればできるかもしれないけど、確実にできるとは限らない課題の場合、「失敗したらどうしよう」といった不安が高まり、逃げ出したい気分になるため、モチベーションは高まりません。
このようなタイプが部下である場合は、本人の実力で確実にこなせそうな課題を与えることで、力を発揮してもらえるはずです。その際、失敗への不安を和らげるために、知識やスキル面でのヒントを与えたり、何かのときにはサポートするからと安心させてあげたりすることが大切です。