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【働き方キャリア相談】 同一労働同一賃金 司法より当事者間の交渉で

【福岡/北九州/働き方キャリア相談】 同一労働同一賃金 司法より当事者間の交渉で

ポイント
○最高裁判決は一定の正社員優遇に肯定的
○均衡待遇は法の趣旨に合うが定量化困難
○デジタル変革が雇用に及ぼす影響も課題

10月13日と15日に最高裁で、労働契約法20条を巡る5つの判決が出された。同条は、同一の使用者に雇用される非正社員(有期労働者)と正社員(無期労働者)の間での労働条件の不合理な格差を禁止する規定だ。2018年の働き方改革関連法を機に、パート・有期雇用労働法8条に吸収された(中小企業では21年4月施行)。今回の5判決の内容は、新法の解釈にも引き継がれることになろう。

労働契約法20条を巡っては18年6月に2つの最高裁判決が出されたが、いずれも正社員と職務内容に差がない運送乗務員のケースだった。

今回は正社員と非正社員の間で職務内容に差がある点で、日本型雇用システム下での一般的なケースの裁判だ。しかも従来格差があって当然とされた退職金や賞与などが争点となったため、最高裁の判断次第では企業実務に大きな影響を及ぼす可能性があった。

今回の結論について最高裁の立場が一貫していないとみる向きもあるが、適切な評価ではない。各事業主の労働条件(賃金項目や休暇制度)のそれぞれにつきその趣旨や目的を踏まえ、「職務内容」や「(職務内容や配置の)変更の範囲」の違い、当該事案に関係する「その他の事情」を考慮し、非正社員にも適用すべきかどうかを判断するという点では一貫していた。

結論の違いは、問題となった労働条件の性質・目的や非正社員の状況の違いによる。このように不合理性の判断は個別事案に応じたものだが、「有為人材確保論」に肯定的な立場を示したことは、今後の非正社員の処遇のあり方を考えるうえで注目すべき点だ。

◇   ◇

日本企業は、内部で育成した有能な正社員に対し、長期的な貢献を期待するために処遇面で種々のインセンティブ(誘因)を付与してきた。

その結果として、非正社員との間で処遇の格差が生じた。労働契約法20条が13年に導入された際、日本型雇用システムを見直す社会改革的規定だとする見解も有力だったので、有為人材確保論による格差を否定する解釈もありえた。

18年の判決では、この点についての最高裁の立場は明確でなかった。だが今回は一定の賃金項目や休暇を有為人材確保目的で正社員にのみ認めることを肯定した。特に退職金や賞与の趣旨を、正社員としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を目的とするものととらえ、結論としても非正社員への支給を否定した。最高裁が日本型雇用システムに本格的にメスを入れようとしなかったのは確かだ。

他方、賃金には退職金や賞与のような基本給の後払い的なもの以外に、特殊勤務手当のような職務関連手当、住宅手当のような生活関連手当もある。最高裁は、個々の手当の趣旨が非正社員にも該当する限り、原則として支給すべきだとの立場を示した。休暇についても同様だ。特に有期であってもある程度の継続勤務が見込まれる非正社員には、有為人材確保目的で正社員に認められている労働条件でも、格差を認めない姿勢を示したことは重要だ。

最高裁判決でもう一つ注目されるのは、正社員の賞与の6割や退職金の4分の1を下回れば不合理だとして、格差の「均衡」に着目し救済を認めた高裁判決を退けたことだ。一定の手当や休暇の格差について、勤続が5年を超えた場合にのみ不合理とした高裁判決の立場も支持しなかった。

18年の2判決は、労働契約法20条を「職務内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定」としていたことから、職務内容などの違いがある場合に、その違いの程度に応じた均衡待遇を認めることは、法の趣旨に合う解決方法ともいえた。しかし均衡待遇となると、均衡をどう定量化するかという解決困難な問題にぶちあたる。これを強引に解決しようとすると、今回の一連の下級審判決のように、各地で独自の判断基準が示され混乱が生じる。

こうした事態は容易に予想できたので、労働契約法20条は理念規定とするにとどめ、法的効力を付与すべきでない(裁判で白黒つけるべきものではない)と筆者は主張してきた。今回の最高裁判決は、正社員の労働条件を非正社員にそのまま認めるのも完全に否定するのも適切でないときに、均衡を強引に定量化して部分的な救済を与えることはせず、格差の程度が不合理に至らない限り、介入しない姿勢を示したものだ。

◇   ◇

だが最高裁が既存の格差を是認したとみるのは適切でない。均衡待遇の実現は司法でなく、当事者が交渉で決めていくべきだというのが最高裁のメッセージであり、上記の見解に近い。

そもそも労働契約法20条やパート・有期雇用労働法8条は、格差が不合理とされても、非正社員に正社員と同一の労働条件を保障するものではなく、格差により生じた過去の損害の賠償請求が認められるにすぎない。将来に向けて待遇を改善するには、当事者間の交渉によるしかないのだ。

法は企業に、不合理な格差を設けることを禁じているが、具体的にどうすれば法を守ったことになるかを明確に示していない。上述のように、裁判では不合理性は個別事案の判断しかなされず、どんなに判例が蓄積されても、その判断基準の明確化には限界がある。

こうした状況下では不合理性を軸としている限り、スムーズな労使間交渉は期待できない。この問題の解決に必要なのは、企業が非正社員に対し納得できるような労働条件を提示したうえで、非正社員の同意を得ている場合には、その結果を尊重する(不合理とは評価しない)という解釈を確立することだ。

これは、法が企業に待遇の格差について説明義務を課したこととも整合する。これにより企業には、非正社員に労働条件の内容を丁寧に説明するインセンティブを与えるし、非正社員が納得した労働条件で就労できれば労働意欲は高まり、生産性向上にもつながる。

もっとも、こうしたシナリオは現下のコロナ禍の状況で、多くの企業が非正社員の処遇を引き上げる余力がない中では、実現を期し難い。

むしろ企業は正社員の諸手当を見直したり、非正社員の業務を機械に代替させたりする可能性の方が高いだろう。ただこれは、進行中のデジタル変革の影響により早晩起きると想定されたことだ。

今後、日進月歩の技術革新の中で企業は有能な人材を自前で育成せずに、即戦力を労働市場から調達するようになり、賃金はその人材の従事する職務の専門性に応じたものとなることが想定される。そうなると日本型雇用システムは姿を消し、有為人材確保論により正社員を優遇する基盤はなくなり、「同一労働同一賃金」はおのずと実現する。

それでも労働者間の格差がなくなるわけではない。デジタル変革の波に乗れた者とそうでない者の間の格差という新たな問題が表れるからだ。デジタル政策に力を入れる菅政権は、デジタル変革が雇用に及ぼす中長期的な影響への対策にも取り組まねばならない。

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