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学習の自己調整 1

学習の自己調整 1

我が国の教育目標の一つに、「自ら主体的に学習にとりくむこと」すなわち自己学習力の育成が掲げられている。
心理学の分野では、そうした主体的な学習を「自己調整学習(self-regulated learning)」と呼び、欧米を中心にその理論化が行われてきた。
学習の自己調整を促すためには、どのような支援が必要か考える。

1.自ら学ぶ力としての自己学習力
(1)高度情報化社会と自己学習力

学校教育で習得できる知識やスキルは、社会・職業生活からみると、ごく基礎的・基本的な限られたものである。
そうした基礎的・基本的知識や技能を身につけるとともに、あらゆる分野の情報が随時更新される現代において、必要なときに必要なことを学んで力つまり自己学習力は、学校教育の最終目標といっても過言ではない。

(2)子どもたちの自己学習力の現状

自ら主体的にとりくむ学習は、その約半分程度の割合に生徒しか行っていないということがわかる。

2.学習の自己調整

教育心理学領域では、自ら主体的・能動的に学ぶ学習を「自己調整学習もしくは自己制御学習(self-regulated learning)」と呼び、その理論化と実証的検討が欧米を中心に進展してきている。
そうした中、シャンクジマーマンは、自己調整学習のモデル化に関する7つの理論的アプローチを紹介している。
ジマーマンらの社会的認知理論に基づくモデルは、自己調整学習研究の代表的なモデルであり、実践的介入への有効性や汎用性も高いとされている。

(1)ジマーマンの自己調整学習モデル

ジマーマンらは、自己調整学習を「観察者が目標の達成に向けて自らの認知、情動、行動を体系的に方向づけて生起させ維持する過程のこと」と定義している。
そして、自己調整学習の基本的なプロセスを「予見(Forethought)」「遂行(Performance)」「自己省察(Self-Reflection)」の3つの段階から構成されるサイクルとしてとらえている。
まず、学習活動に先行する段階である予見段階では、学習の目標を事前に定め、どのように進めていくかの計画が立てられる。
目標の達成に対する自己効力感という期待や見通しをもつこと、課題に対して興味をもつといったことも含んでいる。
次に、学習活動中の遂行段階では、計画した行動がうまくいくように注意を集中したり環境を整えたりといった活動が行われる。
また、それらの活動がうまくいっているかどうかのモニタリングも行われる。
学習活動後の自己省察段階では、学習のプロセスと結果を自己評価し、成功や失敗の原因について考える。
また、結果に対する反応が肯定的あるいは否定的な情動として現れる。
これらの自己省察の結果は、次の予見段階に反映され新たな目標設定と行動が計画される。
このようにして、自己調整学習では循環的にプロセスが進行していく。
伊藤(2009)が述べているように、このモデルは教育工学分野などのPran-Do-See(PDS)に近いものであるが、それぞれの段階に関わる要素とメカニズムを、心理学的な観点からより詳細に説明しているといえる。
学習者が自己調整学習のサイクルを進行させていくためには、主としてメタ認知学習方略動機づけが必要である。
中でもメタ認知は自分の認知過程を監視し、必要に応じて調整・制御する、ことであり、学習の自己調整には不可欠であるといえる。

(2)メタ認知

メタ認知とは、自分自身の認知状態をメタレベル(一段上のレベル)から認知することである。
メタ認知の定義はさまざまな立場から行われているが、ネルソンとナレンズによる認知とメタ認知の関係を示す枠組みが比較的理解しやすい。
このモデルでは、対象レベルとメタレベルの2つの水準が設けられていている。
対象レベルと言われる部分は、言語処理や学習、問題解決などの現在進行中の認知過程と考えられる
メタレベルは対象レベルとは別の異なる水準の認知過程である。
2つの間の相互作用を情報の流れでみると、まずメタレベルから対象レベルの情報を得ることモニタリングと呼ぶ。
そして、得られた情報をもとに、メタレベルから対象レベルに対して修正をかけることコントロールと呼ぶ。
たとえば、文章を読んでいて、意味がよくわからない場合に、「自分はどこがわかっていないのだろうか」と自分の理解状態に関する情報を集めるのがモニタリングである。
そして、「どうもこの単語の意味を取り違えていそうだ」ということがわかると「先に読み進めるのを中断して、単語の意味を辞書で調べてみよう」と自分の認知活動を修正する。それがコントロールである。

(3)学習方略

「自分が理解できないことはわかっている。でもどうすればいいか、わからない。」という悩みを学習者がもつことは多い。
メタ認知の用語で説明すると、わかっていないことに気づくという意味で理解状態のモニタリングは行われているが、それに対する対応すなわちコントロールができていないことになる。
この学習者の悩みをもう少し掘り下げると、どういう「方法」で対処すればよいかわからない、つまり学習方略に関する問題ととらえることができる。
学習方略とは、「学習の効果を高めることをめざして意図的に行う心的操作、あるいは活動(辰野、1997)と定義される。
学習方略には多様な種類があるが、一般に「認知的方略」「メタ認知方略」「リソース活用方略」のおおきく3つのグループに分類することが多い。
学習方略に関する初期の研究では、人間の記憶や理解の特性を生かした効果的な学習方法(認知的方略)を中心に検討が行われていた。
その後、自己調整学習研究の発展に伴い、メタ認知的方略や学習者の周囲にある資源(リソース)として環境要因にも目がむけられるようになった。
その背景には、社会的認知理論の基盤となっているバンデューラ「人」「環境」「行動」相互作用論の影響かある。

認知的方略とは、学習内容を記憶したり理解したりする際に用いられる方略のことである。
たとえば、何かを覚える場合、繰り返し書いたり、暗唱したりすることがある。
これは「リハーサル」と呼ばれる認知的方略の一つである。
また記憶する際には、イメージと結びつけたりすることがある。
そうしたやり方は「精緻化」と呼ばれる。
精緻化は、学習内容と関連する周辺の情報を豊かにすることによって、学習内容自体の記憶を促進する
ほかに、同じ特徴をもつグループに分類したり、関係性によって階層化したりといった「体制化」認知的方略である。
こうした認知的方略のうち、リハーサルのように単純な反復を中心とする方略のことを「浅い処理の方略」精緻化体制化のように深い水準で認知過程を行う方略を「深い処理の方略」と呼ぶことがある。
浅い処理よりも深い処理を行ったほうが、記憶の定着がよいことが知られている。

メタ認知方略とは、自らの認知過程の遂行状態に注意を向け、必要に応じて調整を行う方略である。
たとえば、自分がどれくらいわかっているか確認してみるといった「理解モニタリング」「自己評価」、学習の目標を定め、そのための計画を立てる「目標設定」「プランニング」などである。
「メタ認知」の概念からほぼ直接的に導かれるこれらの方略以外に、個々に提案されてきた学習方略の中には、その特徴からメタ認知的方略に位置づけられるものが見られる。
「教訓帰納(市川1991)」「自己説明」(1994)である。

教訓帰納とは、ある問題を解いた後に「この問題をやってみたことによって何がわかったのか」という教訓を引き出すことである。
教訓帰納では、問題を解いていたときの自らの認知過程を振り返りながら確認するという作業が行われるが、問題を解いている最中ではなく解き終わった後ということから、事後的なモニタリングと考えることができる。
メタ認知的活動を時間軸で整理し、課題遂行中のメタ認知「オンラインメタ認知」その前後を「オフラインメタ認知」と呼ぶ場合もある。
教訓帰納は、オフラインメタ認知の一つであるといえる。
引き出される教訓には、自分自身の認知的特性(自分はこの部分でミスしやすい)や問題の一般的な考え方などの種類が想定される。
学習を自ら能動的に進めていくためには、教訓帰納を行って、自分自身や方略、課題に関する知識(これをメタ認知的知識と呼ぶ)を蓄積しておくことが重要である。
リソース活用方略とは、自分が使うことのできる資源(リソース)を有効に活用していく学習方略のことである。
内部資源の活用例としては、一般に集中力と呼ぶような「注意を集中させること」や「努力を傾けること」、そして、学習に対する不安を抑制したり動機づけを高めたりする「情動・動機づけ調整」が挙げられる。
一方、外部資源の例としては、「学習環境の構成」「他者(友だち、教師、親など)への援助要請」、あるいは「外部情報の収集」などがある。
これらの中で、他者に質問したり教えてもらったりする学業的援助要請は、学習を自ら自立的に進めるということから考えると、依存的な行動のように思われるかもしれない。
しかし、学習を自己調整的に進めていくうえでは、不可欠な学習方略である。

(4)自己調整学習理論における「自立」

自己調整学習理論では、教師や親あるいは友だちといった他者との社会的相互作用を積極的に活用する立場をとる。
ニューマン「自己調整において重要なことは、他者の力を借りるべきことを知っていて、自らの意思で他者の助けを求めることである」と述べている(2007)。
自分の力で解決困難な問題に直面したときに、そのつまずきを放置してしまえば、学習は中断してしまう。
他者に援助を求めて自ら能動的に解決を図っていくことが、真に学習を自己調整することなのである。

(5)動機づけ・自己効力信念
自己調整学習においても、動機づけが重要な役割を果たしていることは広く認められている。
バンデューラ「自らの行動を通して変化を起こす力が自分にはあるという信念」が自ら主体的に行動するうえで重要な要素として働くと考え、そうした信念を自己効力信念と呼んだ(1977)
バンデューラの主張が妥当であることが、その後の研究によって実証的に確かめられている。
ピントリッチドグルートは、中学生を対象にした質問紙テストの結果から、高い自己効力感をもつ学習者ほどメタ認知を働かせて学習を自己調整し、認知的方略が使用されることで、結果として学習成績に結びついていることを明らかにしている(1990)

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