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数学力を育てる 3

数学力を育てる 3

3.数学力の育成ー心理学からの提案
(1)問題スキーマの獲得ー「解く」以外の思考活動も充実させる

数学的な問題解決には、問題文を理解するための枠組み知識である問題スキーマを身につけることが重要である。
その問題が「どんな問題であるか」を見抜く力を育成するということである。
そうしたスキーマを豊富にもっていれば、さまざまな問題文を示す状況を正確に把握できる可能性が高くなる。
これまでの算数・数学教育においても、こうした身につける必要性は認識されていた。
ところがこうした力は、教師の説明の後、各自が多くの練習問題をひたすら繰り返し説く中で自然に身につくものとされがちであった。
しかし、「問題を解く」という学習活動だけでは不十分なのではないだろうか。
栗山(2006)は、教師は割合の公式を工夫して暗記させ、その公式を利用して問題を解くドリル学習に時間をかける指導を多く行っているものの、それがあまり効果を上げていないという現状を指摘している。
「練習問題を解く」という学習活動のほかに、子どもが問題スキーマを身につけるための方法として、「問題の構造を意識化させる教授・学習活動」が、問題解決の成績を向上させるという結果が報告されている。
フックスらは、小学校3年生を対象に、すでに学習した文章題について、その表面的な特徴は変化させるが解き方の本質は変わらないように変形した問題を用いた授業の効果を検討している(2004)。
その結果、事後テストでは従来の標準的指導法による統制群と比べて、SBI群が統計的に有意に高い成績を示した。
また、スキーマ知識がどれくらい獲得されたか調べるテストも実施し、問題解決の成績向上には、スキーマ知識の獲得が部分的に寄与していることを明らかにした。
一方、ジテンドラとその共同研究者たちは、スキーマ図と呼ばれる、問題文中の変数の関連を示す図を用いた指導法を開発し、小学算数における効果を検証している(2007)
ものの数の「変化」や「合計」、「比較」を扱った文章題に対して、問題スキーマ指導と問題解決指導の2つの指導フェーズを設定する指導法(SBI群)と、問題解決の流れに沿った一般的な指導法(GSI群)の指導効果を比較した。
SBI群では、新しいタイプの問題を学習するたびに、前のタイプとの共通点や相違点をグループで話し合わせる活動も行った。
その結果、研究者が作成した直後テストおよび遅延テスト(6週間後)と、標準化された地区テストのいずれにおいてもSBI群はGSI群よりも高い成績を収めた
フックスたちとジテンドラたちの指導法に共通するのは、問題スキーマを身につける手段として、「問題のバリエーションの違いを積極的に説明」させたり、「問題の構造を整理するための図を作成」させたり、問題を解いて答えを求める以外の教授・学習活動を充実していることである。
近年、わが国の算数の教科書でも練習問題を解くだけでなく、「絵をみて、足し算の問題をつくりなさい」(藤井ほか、2010)」などの問題作成活動がとりいられるようになってきている。
問題スキーマの獲得には、さらに、問題文の情報の関連性を表した図を誤った図も含めて複数提示して適切なものを選択させたり、複数の問題文を提示して分類させその理由あるいは共通点と相違点を考えさせる、などといった解く以外の多様な学習活動を充実させる方向性が考えられる。

(2)問題解決方略の明示的指導ー工夫の仕方を教える

問題を解く際には、「問題文を図に表してみる」ことや、「複雑な問題の答えを求めるには、まず何がわかればいいかを考える」などのさまざまな工夫、すなわち問題解決方略を用いることが有効である場合が多いことをすでに述べた。
しかし、必ずしもそうした方略を子どもたちが効果的に使いこなせているというわけではないし、そうした工夫自体をまったく思いつかない子どももいる。
たとえば、市川(1993)では、図を使えばわかりやすくなる問題に対して、頭の中だけで考えようとして、結果的に問題が解けなかったり、線分図などの書き方を練習しても、必要な問題で自発的に使おうとしない事例が紹介されている。
植阪らは、なぜ子供たちが図表を使おうとしないのか明らかにするために、「図表を使う」ことに対する子どもたちの行動と認知について、日本とニュージーランドの子どもの比較を行った(2007)。
植阪らは、日本の子どもたちが図を利用しない一因として、「図は教師の説明のための道具である」という認識が強く、自分達の問題解決にも利用できる道具としての認識や図を用いるスキルが十分でないことを指摘したうえで、教師がそうしたスキルについてより明示的に指導することが重要であると主張している。

(3)言語・説明活動の充実ーメタ認知能力の育成

メタ認知能力を育成することも、数学力を高める上で重要である。
メタ認知能力自体を向上させる方法は、「メタ認知のしくみを教える」「メタ認知的知識を教える」、「メタ認知的活動の様子(モデル)を教授者が演示する」、「メタ認知的活動を学習者自身に実践させる」などが提案されている。
学習者自身にメタ認知を実践させる具体的な方法として、ここでは言語・説明活動の充実を提案したい。
たとえば、例題などを用いて問題の解き方について自分自身に向けて説明したり(自己説明)、あるいは、友だちなど他者に対して説明する活動(他者説明)が考えられる。
自分で説明するうちに自分の理解状態がつかめてくるし、自分では理解しているつもりでも他者には十分伝わらないことがわかって、自分の理解が不十分であることを認識する場合もあるだろう。
こうした経験によって、自分の理解状態をモニタリングする力が向上することが期待できる。
また、問題を解いた後の振り返りの言語活動も充実させたい。
答え合わせをして不正解となったものを中心に、「なぜまちがったのか」「どうすればまちがわなかったのか」を教訓として引き出し、言語化してまとめさせる。
これは「教訓帰納(市川、1991)と呼ばれている学習方略の一つであるが、言語化した教訓を自分自身の思考過程に関するメタ認識的知識として蓄積し、次の問題解決場面に活用することで、問題解決力の向上に結びつくことが期待できる。

2008年の学習指導要領の改訂では、すべての教科において言語活動を充実させていく方針が新たに加えられた。
算数・数学においても、「自分の考えをわかりやすく説明したり、互いに自分の表現し合ったりする学習活動などを充実する」ことが求められている。
一般に、教育場面における言語活動の目的には大きく2つある。
一つは他者とのコミュニケーション力の育成である。
もう一つは思考力の育成である。
私たちはものごとを考える際に、多くの場合言葉を使って考えている。
算数や数学の学習においても、言葉は考えるための重要な道具である。
そうした点をより強く意識し、算数・数学における言語活動の充実に努めていきたい。

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