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学力と学習支援のこれから(シリーズ最終回)

学力と学習支援のこれから(最終回)

3.問題解決プロセスを重視した数学学習指導

認知的能力は、情報をダイナミックに処理する「動的な学力」といってもよいだろう。
数学における問題解決力について、心理学からとらえた見方を紹介した。
問題解決プロセスには「変換」、「統合」、「計画」、「実行」の4つの段階があり、前半部分では、言語や数学的概念、そして「問題スキーマ」などの知識が用いられ、変換や統合といった認知的処理が行われる。
後半部分では、解決のための方針が立てられ、実際に解決するための行動が実行される
こうした認知的処理をスムーズにするために、問題解決方略や計算に関する手続き的知識が必要になる。
一口に問題解決プロセスに関わる多様な知識や認知的能力として詳細にとらえることができるのである。
このように心理学では学力を詳細にとらえられる見方が示させている一方で、こうした見方は現在の教育現場に十分に反映されているとはいい難い。
たとえば、数学的問題解決では、問題文を変換して数学的な表象として「統合」することが最も重要な認知的処理である。

そして、問題解決に失敗する多くの子どもがこの処理につまずいている。
しかし、一般的な教室場面での指導では、多くの場合、「統合」というプロセスを集団的な繰り上げで経験するが、そのあとは各自で練習問題を「解く」ことが多い。
「統合」能力を各自が確実に身につけたかどうかといった点を確認することは少ない。
子どものつまずきを減らしていくためには、つまずきやすい、あるいは実際につまずいている段階の認知的能力に焦点を当てた指導が必要である。
心理学では、そうした特定の段階の認知的能力を高めるための学習方法や指導方法に関する開発が進んでいる。
問題解決における問題文の統合能力を獲得するためには、問題文を分類したり、問題文中の数値の関連性を表した図について考えさせるといった学習活動をとりいれた授業が有効であることが確認されている。
また、問題を解いた後にその問題のポイントや正誤の原因を考えておく教訓帰納も有効である。
こうした、「解く」以外の多様な学習活動を授業や学習に組み入れることで、問題スキーマの獲得「統合」能力の向上が図れるのである。
文部科学省による2008年の学習指導要領改訂では、「すべての教科における言語活動の充実」や算数・数学科においては「算数的活動・数学的活動を通して」教育目標を達成していくことが新たに盛り込まれた。
いずれも「活動」が鍵になっている。
冒頭で述べた「動的な学力」を明らかにしてきた心理学は、「各種の活動」を通した教育を実現していく上で、多くの豊かなヒントをもたらすことができると確信している。

4.教科を越えた科学的思考力を育てるために

「観察・実験の結果などを整理・分析した上で、解釈・考察し、説明することなどに課題がみられる」。
これらは、平成24年度全国学力・学習状況調査で明らかにされた、小・中学生の現状である(文部科学省・国立教育政策研究所、2012)。
はたして、理科の授業で学習したことは将来社会に出たときに役に立たないのであろうか。
しかし、何らかの問いに対し、仮説を立て、観察や試みに行ってみたこと結果から、仮説の真偽を確かめて、問いの答えを導いていくという思考は、日常生活でもしばしば行われる
心理学においては、こうしたプロセスの思考全般科学的思考と呼んでいる。

それでは、こうした科学的思考を育てるためには、どのような支援が必要と考えられるだろうか。
科学的思考を扱った心理学の先行研究を基に、適切な思考の仕方と、基本的な原理・原則や概念に関する知識を教授することを挙げた。
これらの教授の重要性は、先に述べた平成24年度全国学力・学習状況調査で明らかにされた課題に対しても、観察・実験の結果などを整理・分析する仕方や、解釈・考察・説明に必要な基本的な原理・原則を概念を教授することによって対応可能と考えられることからも、明らかといえるだろう。
教えて考えさせる授業(市川、2008)では、基本的な原理・原則や概念を教えた上で、それを用いて考える課題にとりくませる指導が提案されていることを紹介した。
理科授業を離れた科学的思考を考えてみれば、それが科学者や技術開発者の仕事であれ、日常生活であれ、既に明らかとされている基本的な原理・原則や概念を導き直すことはなく、基本事項を基に発展的な課題にとりくんだり、実生活に活用したりすることが大半である。
したがって、理科授業においても、「教えて考えさせる授業」の形式で学習することにより、将来社会に出たときに役立つ形で、科学的思考が育成されると考えられよう。
以上をまとめると、心理学では、理科という一つの教科を離れて「科学的思考」をとらえ、そこに必要な支援を考えている。
こうした観点からは、より社会で汎用可能性の高い思考力を育成する手がかりが得られることが期待できるだろう。

5.まとめにかえてー心理学と教育実践をどう結びつけるか

本シリーズを終えるにあたって、心理学と教育実践の結びつきについてまとめておきたい。
心理学の中でも最も教育に近い分野は教育心理学(educational rsychology)であるが、1970年代くらいまでは、基礎的な実験によって学習の原理的法則を見出そうという研究が多く、教科教育を中心とする教育実践とはあまり関連をもたなかった。
1980年代以降、認知心理学が高次の認知過程を扱うようになり、教科教育の素材が扱われるようになるとともに、応用研究やフィールドワークも増加し、教育現場と多くの接点をもつようになったのである。
心理学と教育実践との関わり方として、3つのモデルを示した。
「片道モデル」というのは、「優れた境域実践を研究対象として心理学的に分析する」とか「心理学の知見を生かした教材を作る」のような、一方向的な利用・活用である。
「往復モデル」では、「教育実践を心理学に分析して、実践の改善に生かす」とか「心理学の理論を応用した教育方法を現場で試してみて、その結果から理論を再構成する」というように、フィードバックによって修正や改善を行っていく。
ただし、これらのモデルでは、基本的に教育実践と心理学は分業体制をとることが想定されている。
「連結モデル」は、「心理学者が直接教育実践を行う」、あるいは逆に、「教育実践者が心理学の理論的な背景をもちつつ実践を行う」ということによって、新たな心理学的研究や教育実践を生み出していこうとするモデルである。
これは、個人で行うこともあれば、両者が一体化したチームとなって行うこともあるが、大事なことは、完全に分業体制にしないということである。
本シリーズでは、「認知カウンセリング」や「教えて考えさせる授業」などで、こうした連結モデルに立った研究のあり方も紹介した。

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