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服従の心理 1

服従の心理 1

1.研究の背景、社会心理学における位置づけ

まず、紹介するのは、著者であるミルグラムが1960年から1963年にかけて実施した実験の詳細がまとめられた『服従の心理』という書籍である。
いわゆる「権威への服従実験」(以下、服従実験と略す)が数ある社会心理学の実験の中でも、もっとも有名なものの1つであるからである。

2.研究、本の内容の紹介
(1)服従実験の概要

本書で紹介される一連の実験は、「人は権威者から良心に反する命令を受けたとき、その命令にどこまで服従するのか」を調べたものである。
詳細は映画にもなっているのでそちらをご覧いただきたい。

(2)予測された行動と実際の行動

結果を観る前に、多くの人がどのような予測をしたかを考えてみよう。
ミルグラムは、いまのような実験の概要をさまざまな人に聞かせ、結果の予測をしてもらっている。
なかでも印象的なのは、心の問題の専門家ともいえる精神科医40名による予測である。
彼らは、ほとんどの実験参加者は150ボルト(生徒役がこの実験から解放してほしいという要求をする時点)を超えて、電気ショックを与えることはないだろうと考えた。
そして最高強度(450ボルト)の電気ショックを与えるのは、仮にいたとしたも1000人に1人~2人程度、サディスティックな性向を持つような人でなければ、そのようなことは起こらないだろうと予測したのである。
しかし、実際の結果は、このような予測を大きく覆すものだった。
40名の実験参加者のうち、実に25人(全体の62.5%、ミルグラムによるとこれを服従率と呼んでいる)が、最高強度の450ボルトまで電気ショックを与え続けたのである。
では、なぜこの実験参加者たちは、苦しみながらもなお、何の罪のない人に残酷な行為を続けたのだろうか。

(3)アイヒマン実験

ミルグラムはもともと、アイヒマンという人物の逸話からこの実験の着想を得た。
そのため、この実験はしばしば「アイヒマン実験」とも呼ばれている。
人の本質は見た目では判断できない。
また、「命令にしたがったのみ」という主張も、自ら罪を認めれば重罰に処されることは自明であったから、それを逃れるための言い訳に過ぎないとも考えられる。
実際、多くの人々は彼の裁判の場での言動にもかかわらず、最終的には、アイヒマンをサディスティック的な志向性を持つ、自分たちとはまったく別種の人間だと解釈した。
こうした考えに異を唱えたのが、『イェルサレムのアイヒマン』の著者アーレントである。
彼女は、アイヒマンはむしろ机に座って仕事をするだけの凡庸で小心者の官僚にすぎないとして、それを「悪の陳腐さ」という概念を用いて語っている。
アーレントは、このような主張はによってかなりの非難を受けることになるが、ミルグラムはむしろ彼女の主張に共鳴をし、その真偽を検証する実験を計画した。
それが『服従の心理』に収録された実験の数々である。
ミルグラムは、この実験を通じて、ごく一般的な人々が、実験者に指示されたり、うながされたりするだけで、何の罪のない人に対し、彼を死に至らせしめるかもしれないほどの電気ショックを与え続ける可能性があることを示している。
すなわち、誰もがアイヒマンになりうることを、実験という手段を用いて実証的に示したわけである。

(4)状況の力

それでは、この実験の参加者たちが取った行動が彼らに特有の性格(残酷な性格)や欲求(人を痛めつけたいという欲求)で証明がつかないのだとしたら、いったい、何が彼らの行動を後押ししたのだろうか。
このような問いに対して、ミルグラムは、それを「状況の力」だと主張している。
ミルグラムによれば、私たちは幼い頃から他人を傷つけるのはよくないと教え込まれており、滅多なことで他者に危害を加えたりはしない。
しかしその一方で、権威に対して服従するという性質は、集団生活を営む人間にとっては欠かせない性質である。
物事を成し遂げるには、ヒエラルキーが必要であり、そこには必然的に下位の者による上位者への服従が含まれるからである。
ミルグラムが実験によって持ち込んだのは、こうした人間の服従傾向を顕在化させる状況である。
すなわち実験参加者が、教師として生徒に罰を与えるとういう役目が与えられ、またその行為を、この実験を統括する実験者によって観察、支持されるという実験のセッティングが、「人を傷つけてはいけない」という事本的な道徳心すらも覆す「状況の力」として影響を与えたのだと考えられる。
私たちは、権威者(この場合、実験者)の指示に服従し、ときには何の罪のない他者を傷つけてしまう傾向がある。
しかし被害者との距離が近くなり、被害者の苦しむ様子が直に見られるようになったり、嫌がる他者を無理やり電気ショックの装置に押さえつけて罰を与えたりするような状況では、このような服従傾向は相対的に弱まるのである。

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