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服従の心理 2

服従の心理 2

3.その後の研究の展開と現状、他の研究との関連
(1)状況の力の強大さと基本的帰属のエラー

一連の実験を通じてミルグラムが示したかったのは、人間の行動に及ぼす「状況の力」の強さである。
人間の行動を規定するのは、行為者自身に由来する要因(性格、態度、行動傾向、感情など)と、その行為者を取り巻く環境に由来する要因、すなわち状況の力の2つである(B=f(P・E)。
社会心理学では、伝統的に人間の行動に及ぼす状況の力の強さを実証的に示す研究が数多く行われている。
たとえば、ミルグラムの服従実験と並んで紹介されることが多いジンバルドによる”監獄実験”がある。
ミルグラムの服従実験の場合と同じように、看守役の大学生が囚人役の大学生に比べ、もともと残酷な行動傾向を持った人物とは考えづらいし、同じような囚人役の大学生も、特別に服従的な人物であったわけではないだろう。
模擬刑務所という日常からかけ離れた環境で、看守役、囚人役という役割を与えられたことが、彼らのその場所での行動に大きく影響したのだと考えられる。
社会心理学が状況の力の強さをしめすことにこだわるのは、1つには、私たち人間が状況の力の程度を適正つに評価できず、その影響力を過小評価する傾向があるからである。これを基本的な帰属のエラー(fundamental attribution error,Ross)と言い、国や文化によって多少の程度差はあるものの、人間が普遍的におかしがちなエラーだと考えられている。

(2)服従実験に凝縮された社会心理学的研究

ミルグラムによる一連の服従実験は、「状況の力」を強調しているという以外にも、社会心理学的研究に特有の特徴が凝縮されている。
第1に、社会心理学(特に初期の社会心理学)は、しばしば、世間の耳目を集めた事件や事象を研究の発端とするが、既述のように、塾中実験もその発端はナチスによるユダヤ人虐殺という出来事があり、これに深く関与したアイヒマンの存在が大きな影響を与えている。
第2に社会心理学では、多くの場合、現実の出来事から着想を得た問題であっても、それを実験に再現し、実証することを重視している。
もちろん実験として再現されたものは、本来の出来事とまったく同じ特徴を持ったものではないが、検証すべき問題に関わる要素をうまく抽出して、実験を組み立てることで、より本質的な問題に迫ることができる。
服従実験の場合も、表面的には、ヒトラーの指示のもとで行ったこととには大きな乖離がある。
たとえば、実験者がもつ権威や強制力は、戦争時の指揮官がもつ権限や強制力に比べると、ずっと穏やかなものであっただろう。
しかし、それでもなお個の服従実験は、人は権威者から命令されれば、ときに無辜の他者に致命的な攻撃を加える可能性があることを、鮮やかにそして説得的に示している。
特にこの実験が秀逸なのは、人が他者に及ぼす攻撃性として電気ショックを採用し、それに段階(ショックレベル)を設けたことである。
これにより攻撃性の程度を数値として測定できるようになり、実験のセッティング(状況)の違いによって、攻撃性の程度がどのように変われるかを比較できるようになった。
このような実験手法は、偶然にもほぼ同時期に香華区政の研究で有名なアーノルド・バスがよく似たものを開発しているが、攻撃性を測定する典型的な手法として、現在の社会心理学においてもなお活用されている。

(3)社会心理学的研究と倫理的問題

ミルグラムの服従実験は、社会心理学においてしばしば問題となる負の側面も兼ね備えている。
倫理的問題である。
人間を研究対象として、実験や調査を行う心理学では、しばしばその倫理性が問われるが、日常的な問題を扱う社会心理学においては、他の心理学の領域以上に、実験参加者の人権をめぐって問題が提起されることが多い。
ミルグラムの実験は、社会心理学実験によって実験参加者の人権が侵される典型的な悪例としてみなされるようになってしまう。
ミルグラムは、こうした批判に対し、主な実験の参加者すべてを対象としたフォローアップ調査(回収率92%)の結果もをもとに反論している。
その結果のよれば、実験参加者の85%が実験に参加したことを喜んでおり、後悔した者はわずか1.3%だった。
認知的不協和理論によれば、人は身体的あるいは精神的に労力を投じたものほど、価値を見出す傾向がある
その労力に見合うだけの価値がその対象になければ、単なる徒労になってしまうからである。
このように考えると、ミルグラムの実験は、それが大きな精神的負荷をかける実験だったからこそ、参加者たちがすばらしい実験だと評価した可能性も否定できない。

(4)追試研究

ミルグラムの実験手続きを再現した追試実験は長らく待望されていた。
それは、ミルグラムが実験を行った当時に比べ、個人の権利や自由が認められるようになった現代においても、果たして同様の結果が再現されるかについて、多くの人が関心をもっていたからである。
ミルグラムが実験を行ったのは、まだ、ナチズムによる残虐な行動のショックから人々が立ち直ることができていない時代であった。
ユダヤ人の虐殺は、ヒトラーやアイヒマンによって行われたことだが、その背景にはファシズムの台頭しを歓迎したドイツの一般市民の存在があり、エーリッヒ・フロムは、彼らの性格特性を権威主義的パーソナリティという概念を用いて説明した(1941)。
これは、強い者には従順である一方、弱い者には強圧的であったり、偏見や差別意識にとらわれやすかったりする性格傾向のことで、民主主義的パーソナリティと対置されうるものと考えられている。
のちに、アドルノ(1950)は、権威主義的パーソナリティの程度を測定するF尺度(Fはファシズムの頭文字)を開発しているが、フロムアドルノは、このような性格傾向が強い人ほど、権威者に対して服従的になり、命令されればその内容を道義的には疑問視されるようなものであっても、実行されると考えた。
仮に時代の変節に伴い、このような性格傾向の持ち主が減少しているのだとしたら、現代においては、権威者に服従する割合は大幅に減っているかもしれない。
追試実験を行ったバーガー(2009)は、実験参加者の精神的負担を最小限に抑えつつも、実験手続きの面では、極力、オリジナルの実験を踏襲するという巧妙な追試を実施した。
彼は、ミルグラムの服従実験の結果から、1つの事実に目をつけた。
それは、教師役である実験参加者が、生徒役に電気ショックを与えることを止め、実験からリタイヤするのはほとんどの場合、150ボルト以前だという事実である。
追試実験で参考にされたミルグラムのオリジナル実験では、150ボルト以前で実験を中断した実験参加者が40名中7名いたが一方、150ボルトを超えて電気ショックを与え続けた実験参加者33名中のうち、途中で実験を止めたのは7名で残りの26名(約79%)は最後まで続け、最高強度(450ボルト、30段階目)の電気ショックを生徒役に与えている。
したがって、実験参加者が150ボルトの電気ショックを与える段階までミルグラムの実験を追試すれば、最高強度まで電気ショックを与え続ける人の大まかな数を推定することができる。
結果は、150ボルト以前で電気ショックを与えることを止めた実験参加者が40名中12名、そのまま続けようとした実験参加者が28名というものであった。
すなわち、現代においても同程度の人が最高強度まで電気ショックを与え続ける可能性があることが示されたわけである。

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