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冷淡な傍観者 2

冷淡な傍観者 2

(2)他の緊急事態での実験

てんかん発作の実験は『冷淡な傍観者』の中で紹介される最も有名な実験であるが、傍観者効果を主張するラタネダーリーが行った実験はこれだけではない。
書籍の中で紹介される他の実験は、緊急事態に居合わせた人たちが視界に入っている状況で行われた。
煙が立つという緊急事態を模した実験(書籍の中では実験6、1968)では、参加者となった学生が質問紙に回答している最中に、部屋の中に煙のようなものが漂い始めるというシナリオであった。
実験者はその様子をワンウェイ・ミラーで観察し、参加者が煙に気づいてからそれを伝えるために部屋を出るまでの時間を測定した。
緊急事態の発生を報告した参加者の割合は、参加者が1名だけで部屋にいた場合には75%であったが、サクラでない参加者3名が同じ部屋に居合わせた場合には、37.5%、参加者1名がサクラ2名と計3名で居合わせた場合には10%に下がった。
人数が多いほど報告率が下がることを示した実験であるが、この場合の緊急性は低く、また、3名以下の参加者は単に質問紙に目を落としたままで部屋の様子を観察しなかったのかもしれない。
女性が怪我をする事態を模した実験(書籍の中では実験7、1969)は、煙の実験とは異なり、明らかな緊急事態が設定されていた。
参加者は女性調査員から依頼された質問紙に回答していたが、回答の途中で調査員がアコーディオンカーテンの向こう側に移動した。
しばらくすると、調査員が椅子に乗って書類棚の上のほうから本を取ろうとする音、椅子が倒れる音、派手な悲鳴やうめき声が順に聞こえ、その後
調査員が落ち着きを取り戻して部屋の外に出ていった。
ここでもワンウェイ・ミラーを通して、参加者がいつ援助行動をに出るかが観察されていた。
援助行動に出た参加者の割合は、参加者1名が部屋にいた場合に70%、互いに面識のない参加者が部屋にいた場合40%、参加者とサクラの2名が部屋にいた場合に7%であった。
2名いたとしても、援助生起率は1名条件に及ばないこと、すなわち傍観者効果が示された結果である。
ただし、参加者2名が友人どうしの場合には援助行動の生起率が70%となり、参加者1名の条件の結果と同じになった。
参加者どうしが親しい関係にあると、傍観者効果が起こりにくいことが示されたわけである。
それでも茶者らは、参加者2名が同時に行動を起こせた確立を考慮すると、2名条件での援助生起率は70%より高くなるはずであり、したがって、友人どうしで参加している場合も援助行動が抑制されていると主張する。

(3)傍観者効果が生じる理由

緊急事態で傍観者効果が生じることはわかったが、この効果がなぜ生じるかを追究することも重要な課題である。
ラタネダーリー傍観者効果が生じる主な理由は、責任の分散(diffusion of responsibility)集合的無知(もしくは多元無知:pluralistic ignorance)にあると考えた(1968,1970)。
責任の分散は、同じ影響に居合わせる人が複数いることで、あるいは複数いると思い込んでいることで、自分だけでなく他の人も同様に責任があると感じ、個人として責任を感じる程度が低くなることである。
集合的無知とは、集団のほとんどのメンバーが実際には同じ考えをもっているにもかかわらず、集団のメンバーはそれぞれは、自分の考えが他の多くの人たちは異なっていると思い込んでいる状況のことである。
『冷淡な傍観者』の中では「衆愚」と翻訳されている。
責任の分散集合的無知のどちら片方で傍観者効果を説明できるわけではなく、両者は緊急事態で傍観者が行動を起こすまでの過程の異なるだ段階で作用していると考えられる。

(4)緊急事態に介入する際の意思決定過程

緊急事態に置かれた傍観者が援助行動を起こすまでにたどる意志決定の段階は、ラタネダーリーのモデルよると、次の5段階がある。
第1段階(緊急事態への注意)
事態が発生した際にはまず、自分の居合わせた状況で何かが起こったことに気づき、それに注意を向ける。
たとえば、煙や臭いなどの異変のシグナルに気づき、それがどこから生じているかを特定しようとする。
(e.g,,周囲の喧騒、急いでいる)
第2段階(緊急事態だと解釈)
その場で緊急事態が生じていると解釈する。
たとえば、煙や臭いの状態から、誰かが調理に失敗して鍋を焦がしたのではなく、危険を伴う火災が発生していると判断する。
緊急事態か否かの判断が難しい曖昧な状況に置かれる。
被害者と加害者の関係を誤解する。
集合的無知(e,g,,周りの人が心配しないのだから大した問題ではない
第3段階(個人的責任の過程を決定)
居合わせた状況で自ら行動を起こす責任がどれくらいあるかを判断する。
たとえば、火災の現場に警備員がいれば、自分は積極的に救助に取り組まなくてもよいかもしれない。
一方、自分や家族に危険が迫っているのであれば、何としても自分が救助しなければならないと思うかもしれない。
責任の分散(e,g,,自分の他にも責任のある人がいる
第4段階(介入方法の決定)
どのように救助すべきかを決定する。
たとえば、消火器を探してきて自ら消化しようとする直接的な方法をとるか、消防署に連絡するという間接的な方法をとるかを決める。
援助する能力の欠如
第5段階(介入の実行)
決定した方法を実行に移す。
たとえば、消火器を探し、消火器に書いてある説明を確認してから、消火器をかかえて火災現場に走っていき、実際に消火器を利用する。

これらの障害を乗り越えてようやく緊急時の救助行動が成立するわけであるが、援助を実行して得られる損失は報酬よりも常に大きく、それぞれの段階では障害を乗り越えずに済ませる楽な方向へと圧力がかかる。
その圧力は傍観者の知覚すら歪め、圧力に負けた傍観者は緊急事態が存在しないと思い込むことすらある。
ラタネダーリーはこのような知覚の歪みが生じることも、実験(書籍の中では実験10)を通して確認している。

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