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偏見の心理 1

偏見の心理 1

1.研究の背景、社会心理学における位置づけ

ゴートン・オルポート著の『偏見の心理』は、その原版が1954年にアメリカで出版された。
その4年後、原版をスリム化した短縮版がペーパーバックで出版され、これがベストセラーとなり、1961年には邦訳版が出版されるに至っている。
『偏見の心理』の中でもアフリカ系アメリカ人の問題が重点的に取り上げられ、ユダヤ教徒などの集団に見られる問題とあわせて、アメリカ社会における人種や民族の問題を心理学の視点からどのように捉えることができるかが解説される。
オルポート『偏見の心理』は、それらの研究を鼓舞し、偏見の心理学の発展を加速させるとともに、学術書の範疇を超えて、出版史上もっとも読まれる社会心理学の図書の1つとされてきた(1998)。

2.研究、本の内容紹介

(1)偏見とは何か

偏見の問題を理解する上では、偏見とは何かをまず把握する必要がある。
オルポートは偏見がいかなるものかについて丁寧な解説を行った上で、人種や民族に対する偏見(まとめて民族的偏見と呼んでいる)を次のように定義している。

民族偏見とは、誤った、柔軟性のない一般化に基づいた反感である。
それは意識されたり、表明されたりするかもしれない。
それはまた、集団全体に向けられるか、さもなくば、その集団のメンバーであるという理由で、ある個人に向けられるかもしれない。
(上巻、P8)

定義の柱となるの第1文には、一般化誤り柔軟性反感という4つのキー概念があり、それぞれは次の意味で使われている。
(a)一般化
人が思考する際にはカテゴリが頻繁に利用される。
この定義にある「一般化」は「カテゴリ化(categorization)」と同義であり、あるカテゴリに含まれる似たものどうしを他のものから区別する認知過程を意味している。
人は、カテゴリ化をすることで、それぞれのカテゴリを特徴づける情報を瞬時に連想することができ、その情報に基づいて他者や状況を推測し、適応的な行動を選択することができる。
カテゴリ化それ自体は、人が外界を意味づけ理解するための不可欠かつ正常な過程であるが、以下に述べる他の要素が加わるとこれが偏見になる。
(b)誤り
カテゴリの特徴をもとにしてなされる推測は、正しいこともあれば、誤っていることもある。
そのうち偏見となるのは誤った推測であり、正しい推測がなされているのであれば、それは偏見にはならない。
ただし、ある集団やメンバーを正しく推測するにはかなりの知識が必要であり、実際のところ、推測の正誤は曖昧なままである。
この曖昧な状態でも人は他者を推測しようとするため、推測の誤りはどこかで生じる
ただし、オルポートによると、誤った推測のすべてが偏見ではない。
(c)柔軟性
誤った推測をしても、その推測に矛盾する情報を得たときに自分の推測を柔軟に修正できるとしたら、誤った推測は単なる思い違いであり、偏見ではない。
自分の推測に矛盾する情報を得たにもかかわらず、修正することに感情的な抵抗を感じ、誤った推測に固執するとしたら、その推測は偏見である。
修正への抵抗を生み出すのは集団に向けられた感情である。
(d)反感
集団に対して人が抱く感情には好意的なものと非好意的なものがある。
この事実をオルポートも認めているが、1950年代当時に民族間で見られる感情の大部分は非好意的なものであること、また、好意的な偏見から生じる問題はほとんどないことを理由として、彼は、民族的偏見を非好意的な偏見に限定している。

好意的な偏見から生じる問題も現在では重要とされるが、ここで重要な点は、オルポートの定義において偏見の認知的な要素と感情的な要素が明確に区別され、両者の相互作用についても言及されていることである。
この区別をすることで、偏見の認知的な要素は誰にでもある正常で一般的な過程であり、それが感情的な要素と連動してさまざまな問題が生じることが見えてくる。
それらの問題のうち優先的に解決されるべきものは、特定の集団やそのメンバーに対する敵意的行為である。

(2)偏見から生じる敵意的行為

偏見を自分の中に留めておくことはできるが、感情にはそれを外に押し出す力があり、ある集団に対して否定的な感情を強く抱いているほどその集団やそのメンバーに対する敵意的な行為が表出されやすい。
オルポートはそのような行為を、穏やかな順に次の5つのレベルに区別している。
❶ひぼう
偏見を言葉で表明する
❷回避
相手との接触を避ける
❸差別
相手に不利になる処遇をする
❹身体的攻撃
暴力やそれに近い行動をする
❺絶滅
相手の生命を奪う行動をする

敵意的行為の多くはひぼうや回避の段階に止まるが、それらの段階での経験が長くなるにつれて、敵意的行為が暴力的な要素を帯び、より強い敵意的行為が表出される段階に移行することがある。   
この移行は、当事者が社会的な事情で持続的な緊張状態に置かれているときに促進される。
緊張状態が爆発せんばかりになると、それを発散できるかのように見える組織的運動(e,g,,ナチス)や非組織的な運動(e,g,,暴動)に惹き寄せられる者が出てくる。
それらの運動に参加することで、彼らは自分の憤りが周囲からの支持を得ているように感じ、破壊的行為ですら正当化してしまうことがある。
オルポートが挙げたのはユダヤ人への迫害である。
偏見から発展するこれらの問題を解釈するには、偏見を微視的視点(e,g,,刺激対象、言語表現)から巨視的視点(e,g,,文化、歴史)までの幅広い範囲で捉える必要があるとオルポートは主張する。
ただし、『偏見の心理』を執筆するにあたり、彼が最も力を注いだのは、刺激対象である集団をどのように知覚し意味づけていくかという認知過程であり、『偏見の心理』の3割以上がこの過程の開設に割かれている。

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