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自分を知り、自分を変える 1

自分を知り、自分を変える 1

1.研究の背景、社会心理学における位置づけ

『自分を知り、自分を変える:適応的無意識の心理学』、著者のティモシー・ウィルソン
心理学を学んだからといって、自分のことが簡単にわかるようになるわけではない。
1つは自己に関する研究が本格的に行われるようになったのはごく最近のことで、まだ発展途上だからである。
自己研究の知見が蓄積されても、私たちが自己について深く知るのは容易ではない。
それは、私たちがいくら自己について知ろうとしても、意識的に知ることができる部分はごくわずかに限られていることが、最近の研究によって、ますます明らかになってきたからである。
心理学を学んだからといって、自分のことが簡単にわかるようになるわけではないという2つ目の理由がこれである。
心理学を学び始める動機として「もっと自分のことを知りたい」という理由を挙げる人が多いと述べたが、そのように考える人であっても、自分のことを最もよく知っているのは結局のところ自分であり、自分についてある程度のことはわかっていると思っているのではないだろうか。
ところがウィルソンに言わせれば、意識は氷山の一角というより、氷山の上の雪玉に近く、実は多くの人が知りたいと思う自分自身のことの大半は、意識的に知ることのできる範囲の外にあるという。
つまり、「私たち自身にとって見知らぬ人」とは、すなわち私たち自身(自己)のことであり、ウィルソンはそれを「適応的無意識」と名づけているのである。

2.研究、本の内容の紹介
(1)意識化できない自己

本書の中でウィルソンは、(1)なぜ人は、自分自身(たとえば、自分の性格、なぜそのように考えるのか、あるいは感じた内容そのもの)を十分に知らないことが多いのか、そして(2)どのようにしたら、自分についての知識を深めることができるのかという2つの疑問に答えようとしている。
ただし、2つ目の問いに答えているのは最後の数章のみで、本書の大半はなぜ人は、自分に関する多くのことを意識化できないのか、また意識化できない部分(無意識的な部分)の本質は何かという説明に割かれている。
フロイトは主に2つのタイプの無意識的過程を考えていた。
1つは小学5年生のときの担任の先生の名前など、いまこの瞬間には意識化されていないが、そのことに注意を向ければ簡単に意識化できる類いのものである。
しかしより重要なのはもう1つの無意識的過程であり、これは心理的苦痛の源となっているために、意識の外へと追いやられている思考や欲求といったものである。
フロイトの無意識といって多くの人が思い浮かべるのはこのような抑圧された思考や欲求だろう。
しかし、本書で取り上げられる自己の無意識的過程は、フロイトの考えた無意識とはまるで違うものである。
ウィルソンは、フロイト功績を認めつつも、彼の影響力が強すぎたために、長らくの間、無意識の限定的な機能しか目が向けられず、無意識的過程の研究が停滞したことをむしろ嘆いている。

(2)適応的無意識とは何か

では、ウィルソンが考える無意識とはどのようなものだろうか。
それは「意識的にはアクセスできないが、判断、感情、行動には影響を与える心的過程」というものである。
さらに彼は、この”無意識”に”適応的”という言葉を冠し、「適応的無意識」という用語を造語している。
これを無意識的過程が進化的適応の産物であることを伝えようと意図して作成したものだという。
このような考えの背景には、近年、着目されている「進化心理学」という学問がある。
進化心理学とは、人の心の働きが進化の産物であるという認識に立った心理学のことである。
人間を含むあらゆる生物は、その生活環境に適応してきたと考えられる。
ここでいう適応とは、生物がある環境のもとで繁殖や生存のために、有利な特性を持っているということである。
生存に有利な特性を持つ個体は生き延び、さらに子孫を増やすことによって、その特性を生み出す遺伝子を持った個体が拡散していく。
したがって、もし現在の人類がこうした自然選択の中を生き延びてきた子孫なのだとすれば、人間の持つ身体的特性だけでなく、心理的特性も進化的適応の産物であるというのが、進化心理学の考え方である。
このような考え方が、最近、社会心理学の中にも活発に取り入れられるようになってきている。
本書の著者ウィルソンも、「環境を即座にそして非意識的に評価し、明確化し、解釈し、行動を開始させるという能力は生存に有利なため、進化的選択がなされた」という説明をしている。
意識過程のみでは、瞬間瞬間に押し寄せてくる大量の情報を捌ききれない。
ウィルソンはこのような事情を政治組織にたとえ、連邦政府の膨大な仕事が、大統領の知らないところで進行しているのと同じだと説明している。
もし、行政機関の下級職員が皆休暇を取ってしまったら、政府の仕事はほとんどできなくなってしまう。
それと同じように、人間の心的機能も、無意識的過程が、意識過程の背後で多くの情報を処理することによって正常に機能しているのだと考えられる。
あるいは別のたとえでは、ちょうど現代のジャンボ旅客機が人間というパイロットの手をあまり煩わせなくても、かなりの場合、自動操縦で飛行できるのにも似ているという。
実際、無意識的過程は、意識的過程よりも、より速く、より多くの情報を、特別な努力なしに効率的に処理することができることが、最近の研究によって明らかになっている。
すなわち、判断、感情、動機など、本書で取り上げられている心の興味深い働きの多くは、(フロイトが主張するような)抑圧のためではなく、情報処理の効率性という理由から、意識の外で生起していると考えられるのである。
もっとも「適応的無意識」は”下級職員”として、あるいは”自動操縦”のシステムとして、単に機械的に情報の下処理をしているわけでは内容である。
のちにウィルソンは、適応的無意識スピンドクターとも呼んでいる。
スピンドクターとは、主に政治的な場面で活躍する情報操作の専門家であり、自分が担当する政党や政治家を有利に導くために意図的にメディア戦略などを行う者を指す

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