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それでも人は、楽天的な方がいい 2

それでも人は、楽観的な方がいい 2

2.研究、本の内容の紹介
(1)ポジティブ・イリュージョンとは何か

臨床心理学の分野では、治療的関心から、心や身体を良好な状態に保つためには何が必要かという問題に古くから関心を持ってきた。
たとえば、マリー・ヤホダは、関連研究を詳細に検討し、健康な心を保つ上で重要な6種類を基準としている(1958)。
しかし、社会心理学の中の社会的認知の領域において、一般の人が日常生活の中で行っている推論の実態が明らかになるにつれて、精神的に健康な人の認識は必ずしも正確とは言えず、むしろ、客観的な現実よりも一貫してポジティブな方向に歪んでいるという研究結果が報告され始めた。
そこでテイラーは、一般の人が示すこのようなポジティブな偏りを「ポジティブ・イリュージョン」と名づけ、このイリュージョンが、心身の健康状態に及ぼす影響を検討した。
なお、テイラーによれば、一般の人が示す「ポジティブ・イリュージョン」は、①「自己のイメージ」、②「外界の出来事に対する自己のコントロール能力」、③「自己の将来」の3つの領域で特に顕著に見られると言う。
①「自己のイメージ」についてのポジティブ・イリュージョンとは、自分が持っている特性や自分の行為を、現実以上に肯定的に解釈する個人の傾向を指す。
この自己イメージに対するイリュージョンの代表例としては、自分は平均的な人より優れていると考える「平均以上効果」、望ましい結果が得られたときにはそれを自分の手柄だと考え、望ましくない結果になったときに相手や状況のせいだと考える「セルフ・サービング・バイアス(自己奉仕的バイアス)」、」協同作業を行ったとき、自分が行った作業量や自分の負担分を高めの見積もる「自己貢献の過大視」などが挙げられる。
②「外界の出来事に対する自己のコントロール能力」についてのポジティブ・イリュージョンとは、望ましい結果をもたらす力が自分には備わっており、現実以上に状況(外界)をコントロールできると信じる傾向を指す。
このコントロール能力に対するイリュージョンの代表例としては、くじ引きのように偶然に左右される出来事であっても、自分の力で結果をコントロールできると考える「コントロールの錯覚」などが挙げられる。
③「自己の将来」についてのポジティブ・イリュージョンとは、悪い出来事が、将来、自分の身に降りかかることはなく、多くのチャンスが巡ってくると楽観的に考える傾向を指す。
この将来に対するイリュージョンの代表例としては、平均的な人と比べて、自分には良い出来事が起こりやすく、悪い出来事は起こりにくいと考える「楽観性バイアス」などが挙げられる。
また、自分が時間内に完成できる仕事量を、現実よりも多めに見積もる「計画錯誤」などもここに含まれる。
まとめると、私たちの多くは、客観的事実によって保障される以上に、「自分は良い人間であり、物事を自分の力で左右でき、将来も大きな不幸にあうことはないだろう」というポジティブ・イリュージョンを日常的に示す。
このようなイリュージョンは、一部の人だけが抱く特殊な妄想ではなく、程度の差はあっても、多くの人が普遍的に示す傾向である。
ただし、健康な人が抱くポジティブ・イリュージョンは、「自分は完全無欠であり、何でも自分の思い通りに物事を動かすことができ、自分には不幸な出来事は絶対に起こらない」といった極端なかたちは取らず、ポジティブな方向に偏りながらも、現実に見合った穏当な範囲内に収まることが多い。
なお、自分がこのようなポジティブ・イリュージョンを持つことを、多くの人は意識していない。
むしろ、「自分は現実を正確に捉えている」という、現実認識に対する素朴な信念(ナイーブ・リアリズム)に基づき、このようなバイアスの存在に気づかずに暮らしている。
しかし実際には、ポジティブ・イリュージョンは多くの人の中に存在しており、私たちの認識や行動のあり方にさまざまなかたちで影響している。

(2)ポジティブ・イリュージョンと心身の健康

テイラーは、豊富な研究例に基づきながら、ポジティブ・イリュージョンが、さまざまな経路を通って、私たちのクオリティー・オブ・ライフ(QOL):生活の質)の向上に役立っていることを示している。
まず「ポジティブ・イリュージョン」を持つことは、個人が感じる
①「ポジティブ感情(幸福感、満足感など)」を直接的に促進している。
同時に、ジティブ感情を持っていると、自己のイメージ、コントロール能力、将来に対する認識がよりポジティブな感情は相互に高めあう関係にある
そして、このようなポジティブ・イリュージョンおよび、ポジティブ感情の相互作用が、精神および身体的側面のさらなる向上に、直接的・間接的な影響を及ぼしている。
②「人間関係の充実」への影響としては、ポジティブ・イリュージョンポジティブ感情を持つことで、他者に対するポジティブな態度が形成され、援助行動が増えることが指摘されている。
また、積極的に交友関係を広げる行動が増え、他者からも好意を持たれやすくなる効果が見られる。
逆に、自己についてネガティブなイメージを持っている人は、他者から遠ざかろうとするだけでなく、他者からもさ空けられる傾向がある。
このように、ポジティブ・イリュージョンや、それに伴って生じるポジティブ感情は、さまざまなルートで向社会的行動や対人積極性を高め、好ましい人間関係の形成・維持に影響している
③「創造的で生産的な課題の達成」への影響としては、ポジティブ・イリュージョンポジティブ感情を持つことで知的能力(効率的な情報処理や創造性)が高まる可能性がある。
特に、ポジティブ感情と情報処理や創造性の関係は多くの研究で実証されている。
さらに、ポジティブ・イリュージョンを持つことは、高い動機づけと持続力を生む。
自己イメージがポジティブな人や、自己のコントロール能力を信じている人は、うまくいかないことがあっても、長時間、その課題に熱中することができる。
また、将来に対する楽観性は、強い動機づけと持続力となる。
そして、ポジティブ・イリュージョンおよびポジティブ感情は、課題の達成を助けるさまざまな思考やスキル(建設的な思考自己効力感満足遅延欲求不満耐性自己評価フィードバック機能など)を促進する働きを持っている。
④「ストレス対処能力の向上と自己の成長」への影響としては、ポジティブ・イリュージョンを持つことで、ストレスによって生じるネガティブ感情(不安、抑うつ、怒りなど)を適切に処理し、他者の助けをうまく借りられるなど、問題となる出来事に立ち向かう力が高まる。
このような力は、困難な状況に直面したときに強く発揮されるものであり、社会の中で、潰れずに生きていくためには必須の能力である。
なお、人にとってストレスとなる出来事はさまざまであるが、自分の力でコントロールすることができなネガティブな出来事は心身の健康に特に強いインパクトを持っている。
そして、状況をコントロールできるという信念を持つことは、そのような特別なタイプのストレスに対す抵抗力を高める。
同様に、自己の将来についての楽観性を持つことも、コントロール不可能であると認知された出来事を受け入れ、それに対して効果的に対処していく力を促進する。
また、ポジティブ・イリュージョンは、スザンヌ・コバサが提案した「ハーディネス(頑健さ)」という概念とも関連が深い。
ハーディネスとは、自分のコントロール能力を信じ、新しい活動に挑戦し、積極的に関わっていこうとする個人のパーソナリティスタイルである。
ハーディネス高い人はストレス耐性が高く、困難な事態に直面してもそれを自己の成長の機会に変える強さを持っている(1979)。
⑤「身体的健康の促進」への影響としては、ポジティブ・イリュージョンを持つことが、健康的なライフスタイルの形成を助け、免疫機構などにも影響することが示されている。
その結果、病気の発生や進行が抑制され、早期の回復が促進される。
特に、自分にはコントロール力があるという個人の信念は、免疫機能の低下を食い止める緩衝材になることが繰り返し示されている。
このように、ポジティブ・イリュージョンの存在は、私たちの心だけでなく、身体的な健康の維持・促進にも大きく影響する。

以上で述べたように、ポジティブ・イリュージョンは、人が社会の中で自分の能力を十全に発揮し、社会に対して積極的に働きかけていく行為をうながす力を持っている。
これは、ポジティブ・イリュージョン単なる認識上の歪みや欠陥ではなく、人が社会の中で適応的に生きていくことを助ける機能を持っていることを示唆する結果である。

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