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木を見る西洋人、森を見る東洋人 1

木を見る西洋人、森を見る東洋人 1

1.研究の背景、社会心理学における位置づけ

心理学では伝統的に、人間の心の働きは、文化や生活環境に関係なく、普遍的なものと考えられてきた。
心の本質的なしくみやプロセスには同じ人間である以上大きな違いはないはずだというのが、心理学のおける暗黙の了解だったわけである。
それは社会心理学においても同様である。
しかし、近年になって、こうした傾向に異議を唱える研究者が現れてきている。
その代表格が『木を見る西洋人、森を見る東洋人:思考の違いはいかにして生まれるか』の著者リチャード・ニスベットである。
彼は、文化によって、人々の世界観や自己観は本質的なレベルで異なっており、そしてこうした世界観や自己観の相違が私たちの思考様式も規定してると考えている。
興味深いことにニスベットは、以前は、心のしくみの不偏性を誰よりも信じて疑わない研究者の1人であった。
彼がかつてリー・ロスとともに著した書に『人間の推論』(1980)という題名のものがある。
これは私たちがさまざまな推論をする際の傾向性、すなわち人間の思考様式における一種の癖を集約した書であり、その学問的価値はいまも高く評価されている。
しかし、ニスベットは、『木を見る西洋人、森を見る東洋人』の序章において、この『人間の推論』の内容が、実際には西洋人(より正確には、そのほとんどがアメリカの大学生)を対象とした研究知見をベースにしたものであったにもかかわらず、それを何の疑いもなく、すべての人間に一般化し、「人間」の推論という題名のもとで世に出したことを自嘲気味に語っている。
それほど、ニスベットの人間の心のしくみに対する考え方はおおきく転換したのである。

2.研究、本の内容の紹介
(1)分析思考と包括的思考

ニスベットが、人間のしくみについて考えをあらためるきっかけになったのはある中国からの留学生の言葉だった。
この言葉を機に、人間の思考様式の文化的違いに興味をもったニスベットは、西洋と東洋の哲学者、歴史家、文化人類学者が著した思考の本質に関する比較文化研究を読みあさり、そこには一貫して、よく似た西洋と東洋の違いが示されていることに気がつく。
ニスベットによれば、西洋人の思考様式は「分析的(analytic)」であり、東洋人の思考様式は「包括的(holistic)」であるという。
分析的思考とは人や物といった対象を理解する際、もっぱら対象そのものの属性に向け、その対象が独自に有する属性に基づいてカテゴリーに分類したり、その対象を構成する要素を最小単位まで分割したりするなど、対象や他の対象やそれが置かれた文脈から切り離して理解しようとする考え方である。
それに対して包括的思考では、ある対象を理解するには、その対象が置かれた文脈や他の対象との関係性を無視することはできないものとし、対象が置かれた場全体を包括的に理解しようとする。
このような思考様式の違い端的に表したのが、本書のタイトル『木を見る西洋人、森を見る東洋人』である。
すなわち、木を見る場合でも、西洋人は1本の「大木を見つめる」という思考様式を取るのに対し、東洋人はその木が存在する「森全体を見渡す」という思考様式を取るということである。
もっとも、原題は『思考の地理学:アジア人と西洋人の思考はそのように異なるのか、そしてそれはなぜか』であるので、短いフレーズで本書の主張をわかりやすく示したのはむしろ翻訳者の功績である。
ニスベットは、実証性を旨とする社会心理学者らしく、フィールド研究、社会調査、実験といったさまざまな方法を駆使して、西洋人と東洋人の思考の違いを具体的に示して見せている。
たとえば、増田貴彦ニスベットとともに行った研究(2001)では、日本人の場合、回答の第一声の多くが環境についてのものだったのに対し、アメリカ人は中心の魚から話を始める、
これはまさにアメリカ人が”木”(ここでは中心的な魚)を見ているのに対し、日本人が”森”(ここでは魚が泳いでいる環境全体)を見ていることを示している。
他者の行動についても、東洋人は西洋人に比べ、より包括的な理解の仕方をすることの証左といえるだろう。

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