スタッフブログ
blog

信頼の構造 1

信頼の構造 1

1.研究の背景、社会心理学における位置づけ

『信頼の構造:心と社会の進化ゲーム』は、人間が社会生活を営む上で欠くことのできない「信頼」が、アメリカと日本ではどのように異なるのかという問題意識から、両者の違いを生み出す「信頼」の構造へと迫るものである。

2.研究、本の内容
(1)安心の日本、信頼のアメリカ

日本人とアメリカ人を比較した場合、この他者の意図に対する「信頼」の程度はどちらが高いと言えるだろうか。
一般的な常識から言えば、”集団主義社会”と呼ばれる日本では、ビジネスの現場1つを取っても、信頼関係に基づいた取引が主流であるのに対し、”個人主義社会”であるアメリカの取引は契約関係に基づくものが中心である。
したがって、日本人のほうがアメリカ人よりも他者への信頼の度合いが高いと考える人が多いのではないだろうか。
しかし、本書の著者である山岸らが行った日米比較質問紙調査によれば、他者一般に対する信頼の程度は、調査対象が学生か一般化、あるいは男性か女性かということにかかわらず、ほぼ一貫してアメリカ人のほうが日本人よりも高かった。
このような”一般常識”と実態のずれを、山岸「安心の日本、信頼のアメリカ」という表現を用いて説明している。
すなわち、私たちが通常、日本人の人間関係に対して想定している「信頼」は、「安心(assurance)」という言葉によって、「信頼(trust)」という概念とは区別して定義されるべきであり、前者が日本社会に特徴的なのに対し、後者はむしろアメリカ社会において特徴的であるということである。
山岸は「針千本マシン」という架空の機会を例にこの区別を説明する。

この機会は人間の喉に埋め込まれる機械で、その人間が約束を破ると自動的に千本の針が喉に送り込まれる。
したがって、相手にこの針千本マシンが埋め込まれていることを知っている場合、私たちはその相手に裏切られることを心配する必要はない。
相手は約束を破って自らが痛い目に逢わないよう、約束を守るはずだからである。
すなわち、この場合、相手がどのような人格の持ち主かということや、針千本マシンを埋め込む前はどのような行動を取りやすい人物であったのか、あるいは、相手が自分に対してどのような感情を抱いているか(好きか、嫌いか)といったことはまったく関係なく、約束を破るという行為が相手の自己利益にとってどのような意味を持つかということさえ考えれば、おのずと相手を信用してもよいと判断できる。
これが山岸の言う「安心」である。
では、針千本マシンがない場合、あるいは針千本マシンが相手に埋め込まれているかどうかわからない場合はどうだろうか。
そのような状況では、相手がどのような意図を持っているかを容易には判断できず、相手が私を騙したり、悪意を向けてくる可能性を考慮しなければならない。
このような状態を、本書では社会的不確実性が高い状態、反対に針千本マシンを埋め込んだ場合のように、相手が裏切る可能性がない場合を社会的不確実性が低い状態と呼んでいる。
社会的不確実性が低い状態で他者を信用することは容易だが、人は社会的不確実性が高い状態でもなお、相手の人柄やこちらに対する態度を根拠に信用する場合がある。
これが、山岸の考える本来の意味での「信頼」である。
山岸は、日本のような集団主義社会は社会的不確実性が低い社会であると言う。
なぜなら、特定の相手との継続的な関係性が築かれていることが多く、そのような場合、相手に対する裏切りは長い目で見れば、自己利益を損なうことになるからである。
したがって、相手を騙したり、悪意を向ける可能性は低く、このような社会においては、安心は生まれやすいが信頼は生まれにくいと言う。
一方で社会的不確実性が高い社会では、安心が提供されないために、それに代わるものとして、信頼が育まれると考えられる。
この社会的不確実性が高い社会の代表がアメリカであり、「安心の日本、信頼のアメリカ」という表現にはこのような含意がある。
ただしここで注意すべきは、山岸が、このような日米の文化差を、日本人、アメリカ人の心の内部に存在するものとのとして見ていることである。
これは、日本人とアメリカ人ではそもそも個人の思考様式や行動傾向が異なるとする、文化心理学的な考え方とは一線を画す考え方である。
山岸はこのことを示すために、日米両国を対象とした興味深い実験をいくつか行っている。
一般に文化差」に関する実験の多くは、文化差の”存在”を明らかにすることを目的にしている。
それに対し、ここで例示される実験の目的は、山岸が提唱する理論に基づいて実験状況を設定すれば、日米両国に見られる文化差が”消失する”ことを示すことである。

お問い合わせはお気軽に!

ご不明・ご不安な点など、
何でもお気軽にお問い合わせください。

TEL: 093-981-0244 093-981-0244
営業時間: 10:00~19:00 不定休(カレンダー参照)