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これからの社会心理学 3

これからの社会心理学 3

(3)脳神経科学的アプローチ

進化心理学的アプローチと並び、もう1つ、社会心理学において急速な発展をみせているものに、脳神経科学的アプローチがある。
社会認知アプローチは、人間の心の働きをコンピュータの情報処理過程と捉えることで、さまざまな社会心理学的知見を包括的に理解することに貢献したが、そこで想定されていたのは心の働きに関する抽象的なモデルであり、それが脳神経科学的にどのように実現されていくかについては、とくに問題としてこなかった。

しかし心の働きを知るには、その脳神経科学的な基盤の理解が不可欠だという考え方そのものは、早い時期から社会心理学者にも共有されたものだった。
たとえば、『偏見の心理』の著者であるオルポート”態度”という社会心理学的概念を、「精神的な状態であると同時に神経学的な状態である」と定義している(1935)。
しかしこのような定義をしたオルポート自身が、当時、「社会的なプロセスの生物学的な基盤を知るにはあと1000年はかかるだろう」と述べていたからもわかるように、高次の心の働きを、脳神経科学的な側面から探求するための手法は、ごく最近まで極めて限られたものでしかなかった。

そのような事態を一変させたのは、fMRIをはじめとする脳機能イメージング技術の開発である。
さまざまな課題の遂行中に、脳のどの部位が活発に活動しているかを、比較的容易に計測、記録できるようになったことで、脳神経科学的手法を用いて既存の(抽象的な)モデルの妥当性を検証したり、モデルの再構築を図ったりする研究に社会心理学者が携わることが急速にふえてきた。
また上述の社会脳仮説などの影響もあって、社会的知性は現在、人間をもっとも特徴づける知性としてさまざまな分野で脚光を浴びており、脳神経科学者自身も積極的に脳の社会的機能を調べる研究(社会脳研究)を行うようになっている。
このようにして生み出された無数の研究は、さまざまな脳の部位がどのような心の働きと対応しているかを徐々に明らかにし、また特定の脳部位を通じて、これまで別々に扱われてきた心の機能の間に関連性が指摘されるようになってきている。
すなわち脳神経科学的アプローチに基づいた研究は、脳というハードウェアを通じて、心というソフトウェアの働きを統合する可能性を持っているわけである。
たとえば、アイゼンバーカーらは、fMRIを使った研究で、身体に痛みを感じたときに活性化する脳部位と、社会的排除(仲間はずれ)によって心に痛みを感じたときに活性化する脳部位がじゃなりの程度、重複することを示している(2003)。
人間関係構築の失敗に伴う心理的苦痛が、生存率を直接的に低める身体的苦痛と、脳内で同じように扱われているのだとすれば、これは人間の適応において社会環境が極めて重要であったことを支持する傍証と考えることができるだろう。

以上、ここまでこの半世紀ほどの間に興隆した3つのアプローチを紹介した。
これらはいずれも多様な社会心理学の知見を統合する役割を担いうるが、それぞれのアプローチによって目指されるのは異なる水準での理論統合であり、互いに排除し合うものではない。
それは先述のアイゼンバーガーらの研究が、進化論的アプローチ脳神経科学的アプローチを結びつけ、改めて「社会的動物である人間」の特徴を浮き彫りにしたことからも明らかであろう。
3つのアプローチがうまく補い合うことで、社会心理学の知見が有機的に統合されていくことを期待したい。

加えて、これらの3つのアプローチは、いずれも社会心理学以外の学問(認知心理学、進化論・進化心理学、脳神経科学)の考え方や方法論を取り入れたものだということにも注目したい。
このように社会心理学は他の学問分野からの知識の”輸入”を厭わず、むしろそれらを積極的に(ある意味、貪欲に)取り入れることで今日まで発展してきた。
このような社会心理学のスタンスは、悪く言えば学問としてのアイデンティティのなさや”節操のなさ”を象徴するものである。
しかし前向きにとらえるならば、「社会の中の人の心を探求する学問」という社会心理学の緩い定義と柔軟性が学術研究を後押しし、開かれた学問として人間研究の拠点となりうる可能性を秘めていると言える。
最近は「社会的動物としての人間」の心の機能や社会脳への関心が、社会心理学以外の学問分野でも目に見えて高まっており、反対に社会心理学の知識が”輸出”される機会も増えてきている。
多くの学問が交錯する「クロスロードの社会心理学」村田・安藤・沼崎、2009)が、人間の”社会性”と言う共通の学問的関心を抱きながらも、異なる学問分野で活躍している研究者たちを結びつける「プラットフォーム」(唐沢、2012)となること、これが現代の社会心理学に期待されている姿である。

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