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知覚のしくみⅠーモノが見える不思議ー3

知覚のしくみⅠ-モノが見える不思議ー3

4.視覚による「モノ」のしくみ

触覚や聴覚を通してモノを認識する能力には何の問題もなかった。
つまり、モノの知識には何の問題もないのに、視覚を通してだけ、モノの認識ができなくなってしまったのである。
このような症状は視覚失認(visual agnosia)と呼ばれる。
視覚失認を示す人の中には、DFさんとは異なり、形の認識はできる(線画を描写することもできる)のに、それが何だかわからないという人もいる。
DFさんの症状(統覚型視覚失認:apperceptive agnosia もしくは視覚形態失認:visual form agnosia) と後者(連合型視覚失認:associative agnsia) では、モノの認識プロセスのうちで、障害が起こった段階が異なると考えられる。

(1)知覚の体制化 (perceptual orarization) と表面

一次視覚野では、網膜像上の局所的な特徴(エッジなど)が検出されるが、通常、モノの像は一次視覚野の神経細胞の受容野よりもはるかに大きい。
このため、モノの形を見極めるには、複数の神経細胞が検出した特徴を、何らかの方法でそれぞれのモノに属するグループ(モノの輪郭や表面を構成する特徴グループ)へまとめる必要がある。
大きさの異なる菱形を並べて作成した図では、菱形の配置には意味はないのだが、肌理の異なる複数の領域に分かれてみえるのだろう。
どうやら私たちの視覚には、類似した形や色だったり(類似の原則)、相対的に近かったり(近接の原理)、なだらかに連なっていたり(より良い連続の原理)
これらのグループ化の原理は、最初にその存在を指摘した学派の名前からゲシュタルトの原理(gestalt principles)とも呼ばれている。
要素がグループ化されて画像がいくつかの領域に分かれると、各領域は図(figure)か地(ground)のいずれかに感じられる(図と地の分凝:figure ando ground segmentation)。
図と感じられやすいのは、囲まれている、小さい、形が対称などの性質を持った領域である。
しかし、領域間でこれらの性質に大きな違いがないと、知覚が安定せず、見ている間に図と地が入れ替わることがある。
ルビンの壺と呼ばれる多義図形では、ある時は中央の白い領域が図になって壺が見えるが、しばらく見ていると、今度は黒い部分が図になって、向かいあった2つの顔が見えてくる。
面白いことに、図として見える領域は必ず地(背景)の手前で見え、図と地の境界線は図の輪郭性(固有輪郭)と知覚される。
そして、地となった部分には輪郭がなくなり、図の背後で広がっているように感じられる。

この現象は、私たちが網膜に映っていない部分について、補って知覚していることを示している(アモーダル補完:amodal completion)。
つまり、壺が見えているときには、本当は隠れている背景がどうなっているか、壺の裏側がどうなっているかは、私たちには知るすべがない。
それでも、壺の形は回転対称(前面にも背後にも同じように緩やかな曲面があるよう)に感じるし、背景は見えている部分と同じ色だと感じる。
アモーダル補完は、ほかにも様々なところで行われている。
私たちはモノの形の全容を迷いなく知覚している。
このアモーダル補完は、これまでの経験上、最もありそうな形を知覚するという親近性理論や、前述の良い連続の原理のように、なだらかで単純な形を知覚するといったヒューリスティックが働いているとする説などがある。
また、実際には、モノの輪郭の知覚には、後述するような、そのモノが何であるかを認識する段階からの情報(トップダウン情報)も関係していると思われる。

(2)モノの認識の理論

セルフリッジは、1959年、文字認識の理論として特徴分析に基づく理論を提唱した。
この理論は、3段階のプロセスで成り立っている。
第一段階は「特徴検出」プロセスである。
ここには水平線や垂直線、曲線や直角や鋭角などの特徴を検出する特徴デーモンがいて、提示された刺激の中に、自分の担当する特徴が含まれているかどうかを分析する。
第二段階は「文字認識」プロセスである。
ここには個々の文字を担当する認知デーモンがおり、各自第一段階の出力を見て、自分の関係する特徴デーモンが活性化している程度に基づいて自分の活性度合いを変化させる。
最後の段階は「決定」プロセスである。
ここにいる決定デーモンは、第二段階の出力を見て、最も活性化している認知デーモンが担当する文字を、提示された文字として決定する。
なお、デーモンというのは仮想的な作業ユニットで、人の文字認識を考える際には視覚野の神経細胞または細胞群を想定すればよい。
デーモン(小鬼)が活躍するモデルということで、この理論はパンデモニアム(伏魔殿)理論と呼ばれている。
パンデモニアム理論テンプレート理論よりも様々な字体や癖字に対応できそうだが、その一方で、同じ特徴からなる文字(例:XとV)を見分けられないという欠点を持つ。
これらを見分けるためには、特徴間の空間的構造や関係性(中央でクロスしている(X)、下端で接している(V)を検出するデーモンを加えればよい。

モノの認知については、パンデモニアム理論に欠けていた特徴間の構造を組み込んだ、様々な構造記述理論が提唱されている。
その中でも、ビーダーマンによるジオン理論が有名だ。
彼はモノを構成する特徴として、「ジオン(geon)」(ジオメトリック・イオンを短縮したビーダーマンの造語)と呼ばれる三次元の部品を想定した。
ジオン円柱形の切り口の形や曲率を変えて作られた36種類の形状で、網膜上に投影されたとき、見る向きが多少違っても特定のジオンの種類と、それらジオン間の構造によって、モノについての知識が記憶の中で蓄えられていると仮定する。
そして、目の前のモノの画像に含まれるジオンとその構造が、記憶の中の知識と照らし合わせれて、モノの認識が生じると想定する。

ジオン理論については、いくつかの検証実験で、その妥当性が示されている。
例えば、ビーダーマンクーパーはジオン理論の検証実験において、刺激を用いて反復プライミング実験を行った(1991)。
反復プライミング実験とは、刺激を繰り返し呈示すると、その刺激を認知するまでの時間が短縮され、正答率が上がるという現象である。
A,Bいずれのペアも輪郭線を共有しない補完画像になっている(両画像を重ねると、完全なピアノの画像になる)。
違いは、ピアノを構成するジオンのうち、Aのペアではいずれも共通のジオンが見えるように輪郭線を消してあるが、Bのペアではそれぞれ異なるジオンが見られるように輪郭線を消してあるという点である。
一方の線画の後でもう一方の線画を呈示して、その認識時間および正答率を調べたところ、Aはプライミング効果が得られたのに対して、Bは得られなかった。
これは、ジオンがモノの認識の基本特徴になっている可能性を示す結果といえる。

5.特殊なモノの認識:顔

私たちにとって重要な顔の認識には、一般的なモノの認識とは異なるメカニズムが働いているようだ。
側頭葉にある特定の領域に損傷を受けると、一般的なモノの認識にはほとんど問題がないのに、顔をみて誰かを判断することができなくなることがある(相貌失認)。
声や服装を手がかりにすると誰かがわかるので、個人についての記憶がなくなるわけではない。
顔の認識には個々の部品の形よりも、全体としての配置(コンフィギュレーション)が大切だといわれている。

本章では、網膜像から一次的視覚野での特徴検出、知覚の体制化、そして高次のモノの認識へと進む、ボトムアップ(下から上へ)の処理を中心に説明してきた。
しかし、実施には、モノの認識過程の結果が体制化に影響を受けたり、聴覚や触覚など他のモダリティからの情報によってモノの見え方が変わったりと、処理の流れは一方向ではないことが知られている。

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