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記憶のしくみⅡ-日常記憶ー3

記憶のしくみⅡ-日常記憶ー3

3.記憶はなぜ変容するのか、なぜフォールスメモリが作られるのか

(1)記憶の変容・フォールスメモリが生じる要因

【知識表象とスキーマ】
日常生活を実証的に研究した先駆的存在であるパートレットは、1930年代、北米インディアンに伝わる「幽霊たちの戦い」という物語を用いて、一定期間ごとに繰り返し再生する反復再生法によって記憶が変化するか否かを調べた。
結果、時間と共に物語の細部が省略されたり、実験参加者の知識や態度に適合するように情報が付け加えられたりするなどの変容が示された。
変容の特徴を整理すると、①省略、②合理化(つじつま合わせ)、③ある部分の協調、④細部の変化、⑤順序の入れ替え、⑥実験参加者の感情や態度による影響、も6点であった。
こうした変容の原因を探るには、人間の情報処理過程において、脳内の「知識表現」がどのような構造を持っているかを考える必要がある。
パートレットは、そこにスキーマ(schema) の概念を提示した。
これは、経験によって個人の中に形成される知識的・認知的枠組みのことである。
スキーマは、視覚情報処理における「トップダウン」のはたらきに共通する。
つまり、変容が生じるのは、情報処理のプロセスにおいて、自分のスキーマと、①一致する情報に注意を向ける、②一致しない情報を受け入れない、③一致する情報の記憶が促進される、④一致するように記憶を歪ませる、といったことが影響すると考えられる。

【事故情報の影響】
ある出来事の符号化から検索までの間に、そこに関連する情報が入力されると、その情報に影響されて、元の情報の一部に変わってしまうことがある。
これは事後情報効果(post-event information effect)と呼ばれる。
この時、元の情報と明らかに異なる情報であれば、そのような影響は見られない。
これは差異検出原理(princple of discrepansy detection)による。
つまり、事後情報の影響は情報間の差異(不一致)に気づかないときに生じるとされる。
事後情報が及ぼす影響には、2つのパターンが考えられる。
1つは、情報の一部を書き換えてしまう可能性(上書き仮説)、もう1つは、元の情報と事後情報が共存する可能性(共存仮説)である。
後者の場合、新旧の情報が混在することでオリジナルを見分けられなくなり、新しく入力されたより鮮明な情報の方をオリジナル、つまり本物の記憶だと判断してしまう可能性が高いという。
誘導尋問や対人的・社会圧力の影響(権威効果)はよく知られている。
誘導という点では、子どもでも大人でも、「聞き返し」をされると、聞かれた側は「自分の答えが間違っているかもしれない」と思い、記憶を歪めてしまう可能性がある。
また、例えば、質問の際に、「何か見ましたか」と聞かれるのと、「黒いジャンバーの男性を見ましたか」と聞かれるのとでは、後者の場合、それだけで自分の記憶の中に、そのイメージが描かれてしまう。
そうすると、もともとなかったはずのイメージが混在することになり、情報源のエラー、すなわち、ソースモニタリングエラーが生じることになる。
また、言語情報自体が(言葉の持つ印象などによって)記憶を歪めることがある。
これについて、ロフタスパーマー(1974)による有名な検証
事後情報には、質問による影響もある。
まず、5群に分けた実験参加者全員に、同じ自動車事故の映像を提示した後、事故に関して、各群に、①激突したとき、②衝突したとき、③ドスンとあったとき、④ぶつかったとき、⑤接触したときのいずれかの単語条件で車の速度を見積もるように教示した。
結果、速度は単語条件によって変わることが確認された。
1週間後、この研究の主眼である記憶課題において、「車のフロントガラスが割れていたかどうか」を参加者に尋ねた結果、実際には割れていなかったにもかかわらず、「割れていた」と回答した割合は、「ぶつかった」と教示された群は14%、{激突した」と教示された群では32%にのぼった。

【情報源の共存による影響】
それほど情報源のはっきりしない記憶は、他の情報源との共存によって区別がつかなくなる事態(ソースモニタリングエラー)が生じる。
これまでの目撃証言で冤罪を導いてしまった記憶のエラーの中には、以前見たことのある顔を「事件現場」で確かにみたように錯覚してしまったケースがあるという。
これは無意識的転移と呼ばれる。

【視覚的リハーサルの影響】
精緻化視覚的リハーサル符号化に有効となる一方で、実際には起きていない出来事を繰り返し思い浮かべたり、そのイメージを口にしたりすると、フォールスメモリができあがってしまうことがある。
つまり、イメージが上書きされていくうちに、それがだんだん明確になってきて、実際に起こったことだと思い浮かんでしまうのである。
イメージと実際に知覚している感覚が区別できなくなることをイマジネーション膨張と呼ぶ。
こうした錯覚現象は、上述した「情報源の共存」などによる混乱とも関連している可能性もある。

(2)記憶の変容、フォールスメモリを振り返って

記憶の変容やフォールスメモリの形成に、人間の知識構造や「思考のクセ」とも呼ばれる、人間の情報処理の特徴が関わることを見てきた。
これらの要因は相互に作用して、変容にもフォールスメモリにも関わると考えられる。
そのように歪んでしまった記憶や実際にはないはずの記憶が、時には取り返しのつかない事態を巻き起こすことは人間社会とってこの上ない不利益であり、問題である。
ただ、もう一つ問題にすべき点は、そのような記憶が、われわれが考えている以上に容易できあがってしまう一方で、これを意識することはなかなか容易ではない、ということであろう。
さらにいえば、そうした記憶のしくみを知らないままでいることも、問題をより深刻なものにしてしまう可能性がある。

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