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認知と発達ー推論する心、共感する心ー3

認知と発達―推論する心、共感する心―3

3.「考える」システムの発達

赤ちゃんは、能動的かつ戦略的に外界の情報を処理する認知的基盤を持っていることを見てきた。
知覚弁別の実験を振り返ると、そこには知覚だけでなく、注意や記憶などの認知機能も関与していることがわかる。
例えば、馴化脱馴化法において、馴化刺激新奇刺激が順に提示されて区別できるようになるには、馴化刺激記憶表現を脳内にとどめて、新奇刺激に注意を向け、そこを記憶と新奇刺激の照合を行い、刺激間のズレ(一致か、不一致か)を判断する、すなわち「考える」必要がある。

(1)顔から「心」を推測する

【表情を参照する】
ギブソンウォークは、乳児の奥行き知覚を調べるために、視覚的断崖(visual cliff)と呼ばれる装置を考案した。
実験の結果、奥行き知覚は生後3カ月頃に成立すること、また生後6~12カ月では断崖のところで泣いて立ち止まることから、この頃から知覚と恐怖感情が連合することが示唆される。
ところが、この実験で、断崖の方から親が手招きをすると、乳児は、断崖の前で一度躊躇するものの、親の顔を見て、笑顔で肯定的な表情であれば親の方に進んでいき、不安や心配そうな否定的な表情であると、断崖の前で止まったまま動こうとしなくなる。
生後1歳前後で大人の表情を自分の行動選択の手がかり(社会的参照)として利用できることがわかった(1985)。

【視線を参照する】
乳児は、親と見つめ合う「二項関係」から、9カ月を過ぎる頃になると、親と同じ対象に目を向ける「三項関係」へ注意の範囲を広げる。
この視線追従は共同注意(joint attention)と呼ばれるが、それだけでなく、12カ月ごろには親の視線が同じ対象に向いているかをチェックするようになるという。
これは、視覚的断崖実験でも見られたように、自分が見ている対象について、大人の視線や表情からその意図を評価する社会的参照が機能しているといえる。

【表情から他者の心を推測する】
他者の心の状態を推論する機能が生後3~4年で獲得されることを示唆する。
この時期は「心の理論」が芽生える時期とも一致する。

(2)心の理論の発達

知覚の熟達化が進むと同時に、注意や記憶だけでなく、その知覚対象がどのような状態であるのかを探る「推論」の機能もすでに関わり始めていることがわかってきた。
子どもが他者の心の状態を推論できるかという問題は、心理学では、心の推論(theory of mind)に基づいて議論されてきた。
幼児の「心の理論」を調べる実験パラダイムに、誤信念課題(false belief task)がある。
この課題は、人の心は「欲求」と「信念」からなるとして、それらが人の行動を決定づけるという考え(1983)に基づいている。
課題では、子どもに、あるストーリーを提示し、その後、登場人物がどのような行動を取るのかを尋ねる。

パーナーウィマーは、7歳児、8歳児、9歳児、10歳児の4群(計24名)の参加者に、入れ子構造の誤信念課題を用いて複数の実験を行った。
その結果、二次的信念の理解は7~8歳児では難しく、9~10歳児までに発達することが示唆された。
二次的信念が理解できるようになると、子どもは「自己理解」が進むと同時に、より高次の「三次的信念」という理解できるようになる。
問題理解や論理といった社会とより密接に関わる思考の能力獲得にも繋がっていくと考えられる。

(3)推論する心の発達と脳の関係

【共同注意と脳の関係】
【心の理論と脳の関係】
他者の心の状態を推論するとき、脳内ではどのような活動が見られるのだろうか。
1つは、理論説あるいは理論理論(theory theory)と呼ばれるものである。
バロン=コーエン(1994)によると、理論説とは、人には生得的に、他者の心に関する因果関係を推論する過程「心の理論のモジュール」が脳内に備わっているとする説である。
もう1つは、シミュレーション説(simulation theory)である。
簡単にいえば、人間は相手の立場になって考える機能が働くというものである。
他者を推論するとき、自分がその他者の立場になったと仮定して模倣する、すなわち他者の心の状態をシミュレートするという説である。

【自閉スペクトラム症と心の準備】
誤信念課題を用いた実験から、心の理論の出現時期は4歳頃だと推定されている。
同年代の自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorders:ASD)児では誤信念課題の通過率(課題をクリアする児童の割合)は低いが、遅れて発達する(8~9歳頃に可能になる)ことがわかっている。
ASDは発達障害の一つで、その原因は脳機能の変異にあり、症状として「興味の対象が限定されていること」や「社会的コミュニケーションを苦手とすること」が挙げられる。
コミュニケーションの観点で、その反応や脳活動は定型発達(Typical Developmento:TD)児と比較されることがある。
しかし、ASDにおける脳機能の問題は一様ではなく、心の理論についても関係する脳部位を特定することは難しい。
ASD同士の場合の反応は、従来ASD者は共感性が乏しいとされてきたが、ASD者の行動パターンに対しては共感できることを示唆している

(4)「考える」システムの発達研究

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